客電落ちて、かっこいい曲、カットイン。

  一筋の光の中、浮かび上がるフランケンシュタインのように体中つぎはぎだらけの男の姿・臣太朗。よたよたとしながら・・・だが必死に何かから逃れようとして、歩くでもなく、走るでもなく進んでいる。

  その臣太朗の手を引いている麻英子。

  もっとスピードを出したいのだが、臣太朗の脚がおぼつかない。

麻英子、後ろから来るであろう敵を気にしながらも、

麻英子「急いで・・・急いで!はやくはやく、はやくってば!」

臣太郎「麻英子・・・麻英子・・・もういい・・・もういいよ」

麻英子「もういいって!何がいいのよ。いいわけないでしょ!」

臣太郎「もういい・・・もういいよ・・・奴らの目的は僕なんだ・・・このままだと、麻

英子、きっと君が罰を受けることになる・・・だから・・・」

麻英子「ごちゃごちゃ言ってないではやく!はやく走りなさいよ!」

臣太郎「だから・・・もう、僕をここに置いていってくれ・・・」

麻英子「そうはいかないわよ」

臣太郎「麻英子・・・僕はもうこれ以上走れないよ」

麻英子「何弱音はいてんのよ!」

臣太郎「僕の身体はいろんな人の身体のつぎはぎで、おまけに肝心なところには機械が入っているんだよ・・・そんなにはやくは走れないよ」

麻英子「だからどうしたっていうのよ」

臣太郎「それに・・・それに僕はまだ生まれたばかりだし・・・」

麻英子「はやくはやく、はやくったら・・・」

臣太郎「麻英子・・・何故だ、何故僕にこだわる?何故僕を助ける?何故僕を走らせる?何故僕のことを連れ去ろうとする?何故!」

麻英子「私があんたにこだわる理由も、あんたを助ける理由も、あんたを走らせる理由も、あんたを連れ去る理由も、たったひとつよ」

臣太郎「それは・・・それは何?」

麻英子「あなたの頭の中には、私が好きだった人の脳味噌が入っているからよ」

  曲。

  そして走っている二人をはさむようにして、下手から金安と瀧本が登場(瀧本はキャメラマンなので、ムービーのキャメラを持っている)

金安「いいぞ。その調子、走れ走れ走れ走れ!」

臣太郎「僕の頭の中に・・・入っている・・・脳味噌?」

麻英子「そうよ・・・私は・・・私はそれを守りたいだけなの」

金安「キャメラ!ちゃんとフォローしてるか?」

瀧本「ばっちしです。ど真ん中で!」

金安「よっしゃあ!」

瀧本「フィルム、あと四〇〇フィートになりました」

金安「寿枝、ヤツはどこまで走らせられる?」

寿枝「次の通りの角まで。車の通行、止めてありますから!」

金安「大丈夫か!」

寿枝「行けます!」

金安「ようし(瀧本に)残り四〇〇フィート、回し切っちゃってくれ」

瀧本「了解!」

臣太郎「でも・・・でも麻英子さん」

麻英子「何?」

臣太郎「こんなスピードじゃ・・・こんなスピードじゃ、すぐに追いつかれてしまいますよ」

麻英子「わかってる。そんなことはわかってるよ」

金安「はーい、必死に走る人造人間と麻英子を追って、この人造人間をつくったマッドサイエンティストの井上とその人造人間のナゾを追う新聞記者、土屋が姿を現す!」

  と、登場する井上と土屋。

土屋「ヤツは女の子をさらって逃走中なんですよね」

井上「まだわかんないでしょ、そんなことは!」

土屋「女の子に危害を加えるってことはないんですか?」

井上「さあ、その可能性はあるかもね」

土屋「可能性あるんですか?」

井上「なんたって生まれたばかりだからね、何が正しくて何が間違ってるのか、やっていいことと悪いことの区別、なにもわかっちゃいないからね」

土屋「そりゃまずいじゃないですか」

井上「だからこうやって追いかけてるんじゃないの。あの子がへんな間違いを起こす真江に!」

土屋「それじゃ、ますます急がなきゃ!」

井上「一生懸命急いでるじゃないの。さっきから!」

土屋「でもどうして! どうしてどうしてあなたは死んだ人々の身体をつぎはぎして人造人間を作りだしたんですか?どうしてあなたはあんな化け物に命を与えたんですか」

  井上、その言葉を聞いて立ち止まると、振り向きざまに土屋を殴り飛ばした。

井上「化け物じゃないわ! あれは私が命を与えた、私の息子なのよ!」

  そしてまた走り出す井上。

  残された土屋。

土屋「だとしたら、あなたはモンスターの母じゃないか! この特ダネ、死んでも逃すか!」

  と、井上の後を追って走り出す土屋。

金安「(叫ぶ)カット! はい! そこまで!」

寿枝「止めていた車、全部通していいから」

金安「どう、キャメラは」

瀧本「ばっちしよ! 美雨! このロールのフィルム、全部回しきったぞ」

美雨「はい、ロール二十二、フィルムチェンジです」

  素に戻った臣太郎、麻英子。

臣太郎「大丈夫だった?(と後ろを示し)あそこのところで身体ふらついてたけど」

麻英子「大丈夫大丈夫、フォローしてくれてありがとう」

井上「わーだめ、とちりそうになっちゃったよ。(ゆっくりと)何が正しくて何が間違っているのか・・・(早く)何が正しくて何が間違っているのか」

土屋「でもあれはキャメラ離れてましたし。アフレコでなんとかなるんじゃないですか」

井上「なんとかなるかなあ」

土屋「なりますよ」

井上「ああ。なら良かったけど」

  と、(舞台の上ではすぐ近くになっているのだが)三々五々集まってくる。

麻英子「監督、大丈夫でした?」

金安「うん、オッケーオッケー!」

土屋「もうちょっと焦った感じの方が良かったですかね」

金安「いや、焦んなくていい焦んなくていい。全然焦る必要なし。むしろね、のほほんと

してくれてた方が、君のキャラクターに合ってるし、こちらは助かるんだよ」

土屋「(独り言のように)ああ、じゃあ、あれで良かったんだ」

井上「うん、ツッチーはいい感じだったんじゃないの?」

土屋「ほんとに?」

井上「ほんと、ほんと」

麻英子「(臣太朗に)あそこさあ、こう手をひくところもうちょっとこういうふうに強めにひいてくれていいよ」

臣太朗「あ、わっかりました」

金安「はい、じゃあ、キャメラのポジション向こうに移してもう一度、同じ芝居ね」

寿枝「はい、じゃあセッティングお願いしまーす」

キャストの人々「ハーイ!」

  とキャスト、三々五々散っていってはける。

  舞台中央に金安・瀧本・寿枝・美雨が残る。

寿枝「セッティング出来次第、車止めまーす」

瀧本「いい感じの絵になっていますよ」

金安「うん、みんな頑張ってるからねえ」

美雨「でも監督、どうするんですか」

金安「どうするって?」

美雨「ラストシーンの流星群」

瀧本「美雨、その話はあとでいいだろう。何もこんな現場の真っ最中にしなくたって」

美雨「だって・・・こういうシーンがいくらよくできたって、ラストの流星群の絵がしょぼしょぼだったら、お話ぶちこわしじゃないですか。説得力のない映画になっちゃうの、目に見えてるじゃないですか」

瀧本「美雨。いい加減にしろ!」

美雨「だって!」

金安「わかってる・・・それは考えてる。ずっと、ずっと考えてる。この映画のシナリオを思いついたときからずっと」

美雨「でももう、クランクインしちゃって、撮影だって大詰めに来ているのに」

瀧本「今はCGで合成するっていう手もあるんだしさ」

美雨「だめよCGなんて」

瀧本「バカ!『タイタニック』のCGにどれだけ日本人スタッフが参加しているのか、お前知っているのか」

美雨「CGじゃ、監督が書いたシナリオのあの感じはでないと思うな」

瀧本「じゃ、どうしろって言うんだよ」

金安「瀧本」

瀧本「はい」

金安「スタンバイできたみたいだぞ」

瀧本「はい(とファインダーをのぞく)」

金安「回すぞ。(全員に)はい、用意、キャメラ! アクション!」

  カチンコが鳴る。

  下手にぎくしゃくと歩く臣太朗と麻英子。

  上手にそれを追う、井上と土屋。

  それを腕組みして見下ろしている(感じの)金安とそのそばにたつ美雨。

  そしてカチンコを持つ寿枝が照明に浮かび上がり、

金安「そう・・・問題はラストの大流星群だ。次から次へと夜空を埋め尽くし、まるで雨

が降るように星が降ってくる。一瞬にしてあたりは昼間のような明るさになる」

美雨「みにくさゆえに人々に追われ、自らを作り出した母なるミス・フランケンシュタインの過剰な愛を拒絶し、そのあげくに唯一の理解者であり、彼の恋愛の対象である麻英子は瀕死の重傷を負う」

寿枝「そして彼は麻英子を抱きかかえ、夜空を見上げる。麻英子が言った。『流れ星が落ちてくる間に、三回願い事を唱えると、その願い事がきっとかなうはずだ』と・・・だが、時折彼の頭上に落ちる流れ星は、あっというまに燃え尽き、彼は願い事を三回唱えることができない」

金安「彼は繰り返す。必死に繰り返す。どうかこの子をお救いください。どうかこの子をお救いください。どうかこの子をお救いください。それでも流れ星は輝く時間はあまりにも短かった」

寿枝「そして奇跡は起こった。その時、彼の頭上に大流星群が降った。流れ星は次から次へと降り注ぎ、夜空を埋め、まるで雨が降るように星が降った。一瞬にしてあたりは昼間のような明るさになる」

美雨「それはCGじゃだめなんです。本物を撮らなきゃ説得力がないんですよ。本物を、

本当に夜空を埋め尽くし、まるで雨が降るように星がふる流星群を。でも、でも・・・どうやって・・・」

金安「カット! OK!」

  曲。カットイン。

  金安たちカメラマンチームと井上・土屋チームはける。

  そして、臣太朗・麻英子が舞台中央へ。

  『カット!』の声がかかった直後で、普 通の感じに戻っている。

臣太朗「(キャメラがある方向を見上げて) OKかなあ」

麻英子「今の良かったよね」

臣太朗「ええ、上手くいきましたよね」

  と、その二人の背後に現れる三角の旗を持った瀧本。

  その瀧本についてどやどやどやと人が口々にしゃべりながら現れる。(瀧本以外は全員後ろを向いています)

  そして瀧本、その集団に向かって、

瀧本「皆さん、もうお揃いですね。そろそろタイムマシーンが作動する時間ですよ、さあ、この辺に集まってくださいね。はい、みんなもっと寄って寄って寄って。(何かを確認して)はい、十五秒前、いかがでしたか?バブルがはじけたあと、不況にあえぐ千九百九十八年を楽しんでいただけましたか?じゃあ、そろそろですよ。三、二、一、はい!バック・トゥ・ザ・フューチャー!」

  SE ズドーンという音。

  照明、ゆらいで消えかかる。その間、

臣太朗「うわ、なんだこれ!」

麻英子「何これ!」

臣太朗「うわあ!」

瀧本「次は二〇一三年でーす!」

  暗転。

  曲・スライド

  『バック・トゥ・ザ・フューチャー ・』

  明転。

  そこは時間旅行会社のオフィス(のようなところ)

  よしがいる。

  入ってくる制服姿の賀屋。

  賀屋はどうやらこの旅行会社に事務員として就職したらしい。

賀屋「よしさん、コーヒーでも入れますか?」

よし「い、いやいい。さっきから胃がなんかちくちくするんだ。新入社員瀧本裕太郎君が添乗員として一人立ちした初めてのツアーなんだけど・・・」

賀屋「心配なんですか?」

よし「心配だよ。あいつ、人の言うこと聞かないし、わがままだし、自己中心的だし。強情だし。何よりも自分がそういう人間であることを絶対にみとめようとしないっていうのがさあ・・・」

  と、照明緩やかに暗くなり、すぐ明るくなる。

  以後、瀧本のツアーが帰ってくるまでこれは繰り返され、その間隔は次第に短くなっていく。

よし「あ・・・・やっとか(と、時計を見たりもする)」

賀屋「よしさん、そんなに心配しないでも大丈夫ですよ。きっとみんな無事にバック・トゥ・ザ・フューチャーしてきますって」

よし「でもなあ、この前の『百姓一揆に参加しようツアー』なんて、九年も時間間違えやがってさあ・・・」

賀屋「でもまあ、みんななんとか帰って来れたんだし、あの時のお客さんも喜んでくださったみたいだし・・・あの時の縁で、こうして私も仕事が見つかったわけだし・・・」

よし「俺、今でも時々百姓達と戦ってる夢、みるもん」

賀屋「よっぽど強烈だったんですね」

よし「もう、俺、どきどきだったもん」

賀屋「わたし、なんか映画に参加してるみたいで面白かったですよ」

よし「君、映画好きだもんね」

賀屋「ええ。大好きです」

よし「なんかやたら詳しいよね。映画の話とかさあ」

  そしてSEの『ギューン、フーン、ギューン』と、変な音がして暗転。

  音は続いている。

  音が途切れ、明転するとツアー客が(やはり同じように後ろを向いていて)立っていて、ツアコンの瀧本だけが客席を向いている。

瀧本「はあい、みなさん、お疲れさまでした。ここはもう二〇一三年です。お忘れ物のな

いようにお気をつけてお帰り下さい。また、時間旅行におでかけの際は、ぜひ当社をご利用ください」

  客、なるべく顔を見せないようにしてはけていく。

  瀧本に寄ってきて、よし

よし「大丈夫だったろうな、お前」

瀧本「ええ、もちろんじゃないですか。もうばっちしですよ」

賀屋「お疲れさまでしたあ!」

よし「お客様をどっかの時代に取り残してきたなんてこと、ないだろうな」

瀧本「よしさん、なにバカなこと言ってんですか。少しは僕を信用してくださいよ」

  と、客がはけきって、その場に残っているのは臣太朗と麻英子。

  二人、よしたちの方を振り向いた。

  きょとんとしたままの二人、ずっとそこにいる。

瀧本「(改めて)お疲れさまでした。またご利用下さいね」

よし「(明るく)お疲れさまでした! ありがとうございましたぁ!」

臣太朗「ここ、どこ?」

麻英子「なんで私達こんなところにいるの?(臣太朗に)さっき、道端でロケしてた筈

なのに、私達」

賀屋「(瀧本に)今回はコスプレで参加もありだったんですか?」

瀧本「お客さん・・・」

麻英子「はい?」

瀧本「誰?」

麻英子「あの?」

瀧本「はい」

麻英子「ここはどこ?」

瀧本・臣太朗・麻英子「あれ!」

よし「(瀧本に臣太朗達を示し)お客さんだよなあ」

瀧本・臣太朗・麻英子「違います」

賀屋「じゃあ、誰?」

瀧本「私に聞かれても」

よし「お前に聞かなくて誰に聞くんだよ」

瀧本「だってわかりませんよ、僕だって」

賀屋「あんたがわかんなかったら、誰もわかるわけないじゃない」

瀧本「ついてきちゃったんですかねえ」

賀屋「どこから?」

瀧本「最後に回ったのは一九九八年だったから・・・」

賀屋「(臣太朗たちに)今って西暦何年ですか?」

麻英子「西暦・・・千九百・・・」

臣太朗「九八年」

賀屋「(瀧本とよしに)やっぱりそうだ。一九九八年の人だ」

臣太朗「え、違うんですか?今って西暦一九九八年でしょう?」

賀屋「今は西暦二〇一三年ですよ」

よし「それ言っちゃだめだよ」

麻英子「西暦二〇一三年?」

瀧本「西暦一九九八年の人の割にはすごいかっこしてますよね」

臣太朗「えっ、これは・・・」

賀屋「昔あったじゃないですか、こういう映画。『星降る夜のミス・フランケンシュタイン』」

臣太朗「あ、そうです、それです。僕達は今、その映画の撮影中で・・・」

  と、その言葉を遮るように、よしが瀧本の頭をひっぱたいた。

瀧本「あ、イタ!ちょっとよしさんなにするんですか、痛いじゃないですか。」

  パート1のときと同じように、よしは手を挙げたまま瀧本を追いつめていく。

よし「痛いじゃないだろう。どうすんだよ、え!俺達は旅行会社なんだよ」

瀧本「ええ、それは知ってますよ、そんなことは」

よし「旅行会社っっていうのは、旅行したい人を旅行させる会社なの。旅行したくない人を旅行させちゃだめなの。ね、わかる?」

賀屋「え?え?なんでこういうことが起きるの?」

よし「今、我が社で使っているタイムましんは、半径一.五メートル以内の生物だったらすべて時間を超えて運んでしまうんだよ」

賀屋「人数とか関係ないんですか」

よし「関係ない」

賀屋「へえ、知らなかった」

よし「そりゃ、君、知らないだろう。今までこういう事故が起きたことはないんだからな」

瀧本「いやあ、僕も知りませんでしたよ」

よし「お前は知ってろよ」

瀧本「すんません」

よし「教えたはずだぞ」

瀧本「すんません。つい、うっかり聞き逃してました」

よし「(うんざりして)お前なあ、もうなあ・・・死んでいいよ」

瀧本「いやいやいやいや、よしさん、それはちょっと言い過ぎでしょう」

よし「時間旅行はな、こちらから出かけていく分には許可がでてるんだけど、過去の人間を連れてくるっていうのは違法中の違法行為なんだぞ」

臣太朗「タイムマシンって・・・マジですか?」

麻英子「え、どういうことなんですか?」

臣太朗「俺達、未来に来ちゃったみたいだよ。タイムマシンで」

麻英子「どういうことなの?」

臣太朗「いや、だからよくわかんないけどさ、そんなことは」

よし「これ、見つかったら大変なことになるぞ」

瀧本「こっそり送り返しちゃいましょうか。一九九八年に」

よし「そう簡単はいかないだろう」

賀屋「とにかく、見つからないようにこの二人を隠さないと。もし、ばれたら大変なことになりますよ」

  と、やってくるタイムパトロールの拓弥と毛利。

拓弥「もう遅いわ!」

毛利「もう遅いわ!」

瀧本「うわ!タイムパトロールだ!」

賀屋「え?何で?なんでよりによってこんな時に!」

拓弥「近所まで来たんで、賀屋ちゃんにコーヒーでも入れて貰おうと思って、寄ってみたら、大変なことが起きてるじゃないの」

毛利「一九九八年の人間を二人も連れて来ちゃったりしたら、ねえ・・・」

瀧本「よしさん、みんなこいつらに立ち聞きされてましたよ」

毛利「さあて、大変なことになりましたねえ」

拓弥「よしちゃん」

よし「はい」

拓弥「どうすんの?」

瀧本「どうしましょうかね・・・」

  と、瀧本、よしに頭をひっぱたかれる。

瀧本「あた! なにするんですかよしさん」

  よし、それには構わず

よし「あの、こういう場合、どうしたらいいんでしょうかねえ?」

拓弥「こういう場合ってどういう場合よ?」

瀧本「いま、立ち聞きしていたでしょう」

  と、よし、また瀧本の頭をひっぱたく。

よし「いや、あのですね・・・間違って・・・その・・・時間旅行のお客さんと一緒に過去の人間がですね、現在に来ちゃったり、なんかしたらですね・・・」

拓弥「(強調して)間違って過去の人間が現在に来ちゃったぁ?」

  臣太朗と麻衣子、それは私達のことだと自分で自分を指差している。

よし「は、はい。まあ、手短に言うとそういうことなんですけど」

拓弥「これ、どうよ、毛利ちゃん」

毛利「いやあ、ぶったまげましたねえ。『信じらんなーい』って感じですよ」

拓弥「ねえ」

毛利「ねえ」

拓弥「どうする?」

毛利「あんたたち、時間旅行会社なんでしょ」

よし「そうです」

毛利「時間旅行会社っていうのは、旅行したい人を旅行させる会社なんでしょ?」

よし「そうです」

毛利「旅行したくない人を旅行させちゃだめなんじゃないの」

瀧本「それさっきよしさんが言ったことだよ。あんたら立ち聞きして、それをそのまんま

・・・」

  と、よしにまた頭をはたかれる瀧本。

瀧本「あた!」

よし「とりあえず時間管理局にその旨を申し出て、個人の時間旅行の申請をしてですね」

拓弥「そりゃやってみるのは自由だけど、まず無理だね」

よし「それでもですね。きちんと事情を説明すれば許可は・・・」

拓弥「下りないね」

よし「だめですか」

毛利「ダメダメ」

賀屋「どうして?」

  と、賀屋が発言すると、拓弥はきゅうに優しくなる。

拓弥「どうしてって賀屋ちゃん、理由はどうであれ、そんなに簡単に個人が勝手に時間を行き来するようになっちゃったら、すぐ悪さするヤツがでてくるでしょ」

毛利「絶対にあたる馬券買って、絶対に値上がりする株買って、ベストセラーを先に読んで、全く同じ本を先に出しちゃって、やり放題じゃない」

拓弥「人間はねえ、未来が見えるとか人生をもう一回やり直していいとか言われたらねえ、まず悪いことをする生き物なの。ね、わかる賀屋ちゃん」

賀屋「私は違いますよ」

拓弥「君は違うよ。君はそういう人じゃないよ。それはさ、僕が一番よく知ってるからさあ」

よし「でももし、許可が下りないとなったら(二人を示し)この人達はどうなるんですか?このままここにいたらですね、結局過去の・・・一九九八年の人にしてみれば、突然姿を消して神隠しにあったみたいになってるんですよ」

拓弥「そんなの俺知らないよ。だって俺のせいじゃないもん。(毛利に)な」

毛利「ね」

よし「その時間に存在していたものが、突然姿を消して、元に戻らなかったら、未来に必ず影響がでるはずでしょう」

拓弥「そんなことしたら、この時間旅行会社も時間管理局の認可が取り消されちゃうでしょうねえ」

毛利「会社、つぶれちゃうね、そしたら」

瀧本「あんたらさっきから嫌みばっかりで全然解決策を出してくれないじゃないですか。タイムパトロールの癖に」

拓弥「タイムパトロールの癖に?」

毛利「(拓弥をしめし)いま、カチンときましたよ」

よし「あ、いや、あの、こいつ口のききかたを知らないもんで。こいつの頭で良かったら殴って下さい」

  と、よし、瀧本を押し出す。

瀧本「ちょっとよしさん、よしさん、何するんですか・・・」

毛利「ちゃんと若い者の教育はしといた方がいいんじゃないの? よしちゃん」

  とその時、麻英子がまるで貧血を起こしたようにふらりと倒れた。

麻英子「あっ!」

よし「どうしました?」

  と、駆け寄るよしのそばで、臣太朗もまた倒れていく。

  ドサッ!

賀屋「どうしたの? しっかりして!」

麻英子「身体が・・・なんだか急にだるくなってきて・・・」

よし「大丈夫ですか・・・」

臣太朗「ちょっと横になっていれば・・・」

毛利「やっばーい! それ聞いたことある」

拓弥「えっ?何が?」

毛利「歴史が変わりつつあるんだよ。歴史の歪みの影響が出始めてるんだよ」

拓弥「それまずいなあ」

麻英子「あの、私達・・・・どうなっちゃうんでしょうか?」

瀧本「それはこっちが聞きたいよ」

  よし、また瀧本の頭をはたいて、

よし「とにかく、時間管理局へ行って、事情を話そう。いそがないとこの人達も危ない」

麻英子「(死にそうになりながらも)すいません、よろしくお願いします」

よし「(賀屋に)この人達を頼む。(瀧本に)行くぞ!」

  と、よし、瀧本、でていく。

  と、それとは別の方向(多分上手)に、臣太朗と麻英子を誘導していく賀屋。

賀屋「ちょっとこっちの部屋でお休み下さい」

麻英子「すんません」

  と、一度賀屋、臣太朗と麻英子と共にはける。

  その賀屋の背に

拓弥「賀屋ちゃん、俺にコーヒー入れてよね」

  そして拓弥、毛利に、

拓弥「お前、コーヒー来たらなあ」

毛利「はい」

拓弥「こう(飲む仕草をして)三口飲んだら帰れ」

毛利「なんで?」

拓弥「なんでってお前、俺と賀屋ちゃんをふたりっきりにするためだよ。いいか、こう(と、またやってみせる)三口飲んだら、『あ、用事思い出しちゃった』って言って帰れ」

毛利「用事ってなんですか?」

拓弥「なんでもいいんだよ。用事ないなら作ってでも帰れ。いいね」

と、戻ってくる賀屋。手には二〇一三版の「ぴあ・シネマクラブ」を持っている。

拓弥「あれ、賀屋ちゃん・・・コーヒーは?」

賀屋「いや、ちょっと待ってください」

毛利「何読んでるんですか?」

賀屋「ぴあのシネマクラブ。二〇一三年版。映画のね、あらすじとか公開された時のデータが載ってるの」

拓弥「それで、何を調べてるの?」

賀屋「さっきの過去の人たちが作っていた映画。もしかしたらいま、観れるんんじゃないかと思って」

毛利「さっきの二人がでてるの?」

賀屋「そうらしいんだけど・・・あった(と読み上げるように)。『星降る夜のミス・フランケンシュタイン』一九九八年公開。監督・金安慶行、出演・菅野新太朗、斎藤麻英子、・・・あの二人だ。(拓弥たちに)これ、今からちょっと見てみませんか?」

毛利「えっ、その映画って観れるの?」

賀屋「大丈夫ですよ」

拓弥「レンタルビデオかなんかで?」

賀屋「いえ、最近はレンタルビデオ屋までわざわざ行かなくっても、スカイパーフェクディレクTV・WOWWOWが、カラオケみたいに、番号を入力すると映画を送信してくれて、家庭ですぐに見られるんですよ」

拓弥「へえ、便利になったねえ」

賀屋「ねえ、見ましょうよ、映画、一緒に」

拓弥「(満更でもない)そ、そうか?じゃあ、賀屋ちゃんがそんなに言うんなら、見ちゃったりしようかなぁ」

毛利「(拓弥にこっそり)あ、あの・・・私はいつ帰ればいいんでしょうか・・・コーヒーがでてこないんで、私の帰るタイミングが・・・」

拓弥「適当な所で気を利かせてくれりゃあいいんだよ」

  と、賀屋、入力機で

賀屋「230 Aの13 ・・・って送信ボタンを押すと」

  入力されたピーとかいう音も賀屋が言ったりする。

賀屋「入った入った」

  と、曲が入る。映画のサウンドトラックのようなもの。

拓弥「え、なに、もう始まっちゃうの?」

  と、拓弥と毛利、見る体勢となる。

  これより劇中映画の始まり始まり。

  と、そこはレース場。

 臣太朗、巧みなハンドルさばきで車を走らせている。

拓弥「ああ、レース場から始まるんだ」

賀屋「すっごい迫力」

毛利「こんなのどうやって撮影したんだろう、これ」

拓弥「そうだよな、車、こんなんなってる」

  と、車が走っていることを、手伝って表現してやる拓弥達。

臣太朗「その時俺は、ハンドルを握り、八時間耐久レースのコースをひたすら走り続けていたという。俺は六時間を過ぎたあたりから、トップをキープし、二位の車とはコースの半周以上の差をつけるまでとなっていたらしい。日の射すスタンドではなく、ピットインで待っているように何度も何度も説得したのだが、麻英子は『ピットインにいたら、少しでも遅れる事故にあったんじゃないかって心配になるから、私はスタンドの一番上で、あなたの走る姿をずっと見ていたいの』と言って、本当にスタンドの一番上に陣取って俺に声援を送ってくれていたという」

  SE 車が高速で走り去る音。

  スタンド席で応援している麻英子の姿。

臣太朗「だから麻英子は二四二週目の第三コーナーを曲がりきれずに俺がフェンスに激突する瞬間もその目で見ていたんだと思う」

  SE 激突音。

  とともに拓弥たちも手伝って、カークラッシュ!する

麻英子「臣太朗!」

臣太朗「俺の五体はその事故でバラバラになり、駆けつけた麻英子は、俺の遺体に面会することも許されなかったという」

  SE 救急車の音。ピーポーピーポー。

  運ばれていくように去っていく臣太朗。

  白衣の井上カオリ、手に小型のテレコを持って、それにしゃべりながら登場する。

井上「実験は最終段階に入った。本日の夕方、ついに無傷の頭部がてに入った。自動車レ

ース中の事故死。判別が着かぬ程遺体は損傷しているという理由で、遺族に知られることなく、私の研究室に送られてきた。四十八時間たった今、すべての縫合と接合を終えて、彼は蘇った。新しい人間として」

拓弥「ああ、それでフランケンシュタインが生まれたわけね」

  と、フランケンシュタインになった臣太朗が現れる。

臣太朗「あ・・・ああ!・・・あああ!」

井上「これで私は、人類史上、初めて、自らの身体を痛めることなく、生命を産み出した女となった」

  SE ギュイーン。

賀屋「うわあ、メインタイトルが飛んでくる」

  と、飛んでくるメインタイトルの文字を体現する賀屋。

賀屋「『星降る夜のミス・フランケンシュタイン』」

臣太朗「ああ! ここはどこだ・・・俺は何をしている・・・俺はあの時・・・ハンドルを握り・・・八時間耐久レースのコースを・・・麻英子はピットインを嫌い・・・スタンドの一番上で・・・第三コーナーを回りきれずに・・・ああ、ああ、ああ・・・ああ!」

井上「前の身体の記憶があっては、新しく生まれ変わったことにはならないからね」

臣太朗「あ!」

井上「だから、お前の脳に細工をしたの。お前は新しい思い出がひとつ増える度に古い記憶をひとつなくしていく。そしてお前は徐々に、新しい人間に生まれ変わっていくのよ」

臣太朗「麻英子!」

井上「その女の名前も、その女の記憶もやがて忘れ去ってしまうのだよ。そしていつしかお前は、私をお母さんと呼ぶことだろう」

臣太朗「麻英子・・・麻英子・・・俺はお前のことを決して忘れないぞ・・・」

  と、パキャン!と天窓を破って麻英子が進入してくる(これはロープを下ろして下りてくるもよし。三角蹴りしながら下りてくるもよし、その前に『卒業』のように窓を叩いてのやりとりがあってもよい)

麻英子「ちょっと待ったあ!」

臣太朗「麻英子!」

井上「い、いつの間に・・・ここの研究所は・・・」

拓弥「あれ、ちょっと待って」

賀屋「なんですか?」

拓弥「音消していい?」

  と、拓弥、リモコンを操作してミュートする。

  と、よく見ると、井上と対峙している麻英子と臣太朗の顔が微妙に、へんなふうにけいれんしている。

毛利「あれ、なんかけいれんしてる」

賀屋「映画が古いからかなあ」

毛利「といっても、千九百九十八年の映画だから、そんなに古いわけないでしょう」

拓弥「違う。これも歴史が狂い始めている証拠だ。きっと、過去が、千九百九十八年の人々が大騒ぎしているの違いない!」

  曲、インして暗転。

  明転すると、舞台中央に金安、瀧本、そして井上。

  駆け込んでくる寿枝。

寿枝「監督!」

金安「どうした」

寿枝「だめです。栄町通りは五叉路まで捜したんですけど見あたりません」

  と、駆け込んでくる美雨。

美雨「宮前三丁目の大通りの歩道には、二人は見あたりません」

  と、美雨の後、すぐに駆け込んでくる土屋もまた、

土屋「見つかりました?」

寿枝「まだみたい」

土屋「倉庫街のほうもみたんですが・・・」

金安「なんで?なんで人間二人が姿を消してしまうんだ、突然」

瀧本「あんなに目立つ格好をしてるから、見失うってこともないと思うんだけどもねえ」

美雨「やっぱり警察につかまっちゃったんでしょうかねえ」

寿枝「警察の許可撮らないで、ゲリラ撮影だからねえ・・・」

瀧本「許可取れないんだからしょうがないじゃないか。ゲリラでやるしかないんだからさ。カーチェイスやろうにも、道は片側しか封鎖できないし、交通の邪魔になるからここでるな、あそこで撮るな、お前が映画撮れなくっても、だれも困りはしないが、道路を封鎖すると、色々困るひとがでて来るんだよっていうのが向こうのいい分だからさぁ」

井上「まあねえ。昔ならいざ知らず、今は日本映画なんて、誰も期待してないし。なくても全然困んないもんだしねえ」

土屋「日本映画って、レンタルビデオやで、手に取るってことも稀ですからね」

瀧本「だからどんな映画見ても、似たり寄ったりの場所で、似たり寄ったりの映画を撮ってしまうことになるんだよ」

寿枝「でもそれでもほんとに、警察につかまってるんだとしたら、もう、とっくに連絡が入っていてもいいはずなんですけどねえ、我々に」

金安「とりあえずここは撤収して、連絡を待とう。できるかぎり捜してはみたんだ。これ以上ここにいても、警察に職務質問されるのがオチだろ」

瀧本「その方がいいかもしれませんね」

井上「私ももう、研究室に戻らなきゃなんないし」

寿枝「はい、それでは撤収でーす」

金安「スタッフルームに再集合な」

  と、金安、寿枝が去り、瀧本、美雨、井上、土屋が残る。

瀧本「(去っていく寿枝に)機材車こっちにまわして。キャメラ積み込むから」

寿枝「わかりました」

  美雨はまだ心配して捜している。

美雨「どこに行っちゃったんだろう」

土屋「やっぱりあれですかねえ」

瀧本「なに?」

土屋「都市の片隅で起きた、神隠しってやつですかねえ」

瀧本「なにそんな、非現実的な」

井上「神隠しって、そんなに非現実的なことでもないでしょう」

土屋「え? どういうことですか?」

井上「神隠しって、その原因がわからないから、非、現実的なことだって思われているだけで・・もしも、それが科学的に解明されたとしたら・・」

美雨「神隠しって科学的に解明できるんですか?」

井上「そこから人がいなくなるっていう事の原因は、なにが考えられる?」

美雨「どこかへ連れ去られる・・」

井上「ほかには?」

土屋「ほかに? それだけでしょう・・人がいなくなるっていうのは・・」

井上「連れ去られるっていうのは、場所の移動なわけでしょう・・」

土屋「そうです」

井上「どこか違う時間へ行っているっていうのは、考えられない?」

田中「違う時間に行っている?」

井上「そう、違う時間に移動したとしても、同じように神隠しにあったように、その場所・・というよりもその時間から姿を消すわけでしょう・・」

美雨「それは、そうですけど・・じゃああの二人は、どこか別の時間に行ってしまったと・・」

井上「仮説よ・・そういう考え方もあるってことよ・・」

土屋「うーん、それもまあ、あるかもしれないですけど・・考えられないなあ・・僕には」

井上「昔、星は地球の周りを回っているものだと思われていた・・でも、本当は地球が回っていた・・その昔、宇宙にはエーテルという気体があるものと信じられていた・・でも、宇宙っていうのはただの真空だった・・その昔、燃える炎は元素の一つと考えられていた。でも、今はそんなことはない・・なんでもそうなの・・科学的に解明されてしまえば・・なんて事ないのかもしれないのよ・・」

土屋「人が時間を移動するってことがですか?」

井上「そう、時間旅行の可能性・・それをね・・ずっと考えているのよ・・どうやったら、時間が移動できるのか・・じゃ、私、もう自分の研究室に戻らなきゃなんないから・・お疲れさま」

  と、去っていく井上。

  みな、口々に『お疲れさま』と去っていく井上にかけていく。

  と、これ以降、舞台の下手が撮影現場。

 上手が井上の研究室となる。

土屋「時間旅行の可能性?・・・わかんないっすねえ・・頭のいい人の考えることは・・」

美雨「高校を飛び級で進学、十七で大学生、二十歳には博士号を三つ同時に取得・・大学の研究室に籍を置く人ですからねえ・・」

土屋「でも、なんでそんな人をこの映画にキャスティングしたんですか?」

田中「人間の体をつなぎ合わせて、果たして本当に命を吹き込んで蘇らせることができるのかどうか・・を、監督が取材して回ったんだ。そしたら、彼女が興味を持ってくれて、シナリオの科学考証もしてくれることになったんだ・・それで・・ミスフランケンシュタインのキャスティングももめてるところだったしね・・」

土屋「ああ・・なるほど・・」

田中「っていうのもあるが・・本人が出たがりで・・『出して、出して』ってうるさかったんだよ」

土屋「ああ、それは何となくわかる気がします」

美雨「今、大学の研究室で彼女が言うには『猿が道具を使う事を覚えたことに匹敵する新しい発明』をしているらしいよ」

土屋「へえ・・なんですかね・・猿が道具を使うことを覚えたことに匹敵する新しい発明って・・」

美雨「時間旅行がどうとか・・言ってましたけどね」

  と、舞台の上手に現れる千春。

  白衣を着ている。

  そこは研究室。千春はものすごいスピードでキイボードをブラインドタッチでタイピングしている。

  やってくる井上。

千春「なにこれから?」

井上「うん・・撮影がね・・のびちゃって・・」

千春「ああ、映画か」

井上「映画、映画」

千春「見学せてよ・・今度」

井上「うん・・いいけど・・」

千春「どうなの?映画の方は」

井上「順調よ・・ある一点を除いてはね・・」

千春「牧原教授がナノ粒子の変速運動に関する論文の手伝いをして欲しいとかで捜してたわよ」

井上「私を」

千春「そう・・相良教授も、バイメタルの偏差について相談したいって」

井上「やだ・・どうしてそんなにみんな私にばっかり頼るの?」

千春「答えは一つでしょう」

井上「なに?」

千春「あなたのIQが異常に高いから」

井上「好きでこんなに頭よくなったわけじゃないんだけどね・・」

千春「うわ、それ、世の中に出て言ったら・・刺されるよ」

井上「いやだったよ・・昔から・・ほんとに・・小学校の頃から、知能テストをする度に、大学の研究室が調べにくるのよ・・いつもパーフェクトだったから・・」

千春「あ、それ、私のところも来た・・私もいつもパーフェクトだったから」

井上「あの時からもう、私は理系の大学の研究室に骨を埋めることが決まっていたのかな・・」

千春「その時から、時間は一方向に流れるのかどうか・・って研究をすることが決まっていたのよ」

井上「そうかもね・・」

千春「それで・・できたの?タイムマシンは・・」

井上「まだ・・」

千春「もし、できなかったら、その時は・・」

千春・井上「モスバのテリヤキチキンね」

千春「そういえば今朝、ナサに留学してる友達から国際電話があってさ」

井上「うん」

千春「なんか、大流星群が地球に接近してるんだって?」

井上「(反応した)大流星群?」

千春「そう、なんか・・もうずいぶん前からわかっていたらしいんだけど・・落下地点がアメリカの近くらしいんで、極秘に避難所を作ったりとかしてたらしいよ」

井上「避難所作ってどうするの?」

千春「選ばれた人間が生き残るみたいよ」

井上「そんな『ディープインパクト』みたいなことほんとにやってるの?」

千春「なんだって・・」

井上「それ、いつ!」

千春「え!一年以上前からだって」

井上「違う!流星が降ってくるのって」

千春「今晩だって」

井上「今晩?」

千春「だから、日本には落ちないらしいけど、用心しなさいよっていう電話だったの・・」

井上「今晩・・流星群が降る!」

千春「どうしたの?」

井上「こうしちゃいられない・・もしかしたら・・もしかしたら・・なにもかもがこれで解決するかもしれない・・撮影再開よ」

千春「あ・・見学させてってばさあ・・」

  暗転。

  明転すると、麻英子とフランケンシュタイン臣太郎が対峙している。

麻英子「私が・・私が誰だかわからないの?」

臣太郎「だ・・・誰?」

賀屋「うわあ・・・もうフランケンシュタインは・・なにもかも忘れちゃってるんだぁ!」

拓弥「せつない!切なすぎるよ、それは・・」

麻英子「本当に?本当に・・私のことを忘れてしまったの?」

臣太郎「すいません・・ごめんなさい・・・あなたは・・誰ですか?どうして、僕のことを知っているんですか?」

麻英子「(一人で絶望している)ついに・・・ついにこの時が来てしまった・・新しい記憶が・・あなたの思い出の中の私を・・・追い出してしまったのね・・」

臣太郎「ごめんなさい・・・でも、思い出せないんです・・あなたが誰か?もしかして、あなたは僕の大切な人だったんじゃありませんか?」

麻英子「大切な人・・でした」

臣太郎「名前を・・名前を教えてください・・」

麻英子「麻英子・・・」

臣太郎「麻英子・・・麻英子さん・・」

麻英子「さんなんて・・・さんなんてつけなくてもいいのよ・・」

臣太郎「麻英子・・さん」

麻英子「本当に、本当に忘れてしまったのね・・私のことを・・」

  麻英子が一人で立ち。

麻英子「消えていく・・消えていく・・あなたの中の、私の思い出が消えていく・・あの日々が消えていく・・あの日・・雨の日のドライブ。高速道路が渋滞して、進まなくなった車の中で、カーラジオから流れて来たスマップの『夜空のムコウ』を大声で歌ったことも・・ハーゲンダッツのアイスクリーム。私がコーンの食べ方が下手で、アイスが溶けてきてもうどうしようもなくなったのを見かねて、いつもいつも最後はあなたが食べていたことも。ベランダからはみだしてしまうくらいに大きくなった、あなたが植えたひまわりのことも、ディズニーランドで二人で迷子になって、迷子センターで再会したことも、合コンして会計があわなくて、二人の電車代もつぎ込んで、始発が走るまで、線路を二人で歩いたことも、好きだっていったら、しばらくはずっとペッツばっかりプレゼントしてくれたことも、寝ないでファイナルファンタジーを二人で交互にやったことも、缶コーヒーのシールをプレゼントほしさに必死に集めたことも、夜中にやっていたタイトルもわからないヨーロッパの映画を見て、女の子がかわいそうだと、二人で涙を流したことも、夜の商店街を缶けりしながら、歩いたことも、代々木のフリーマーケットで、お揃いのジーパンを買ったことも、うちの近くの公園の滑り台の上でキスしたことも、終電前の駅のホームで抱きしめてくれた事も、俺はおまえとこの先もずっと一緒なのかもしれないなと、笑いながら言ってくれたことも、二人の間でなんどもけんかしたことも、そして・・何度も・・何度も仲直りして・・その度に・・あなたが・・やっぱり好きだよ・・と、照れて言ってくれたことも・・私が、だったらじゃあ、大事にしてよねって言ったことも、そして、心配するなよ、大事にするからって、答えてくれたことも・・おまえを泣かせることだけはしないから、おまえは笑っているほうが絶対いいんだからって・・おまえは笑っている方が絶対いいんだからって・・言ってくれたことも・・その・・なにもかも・・なにもかもが・・消えて行くのか・・・」

  臣太朗の手を引いている麻英子。

  もっとスピードを出したいのだが、臣太朗の脚がおぼつかない。

  麻英子、後ろから来るであろう敵を気にしながらも、

麻英子「急いで・・・急いで! はやくはやく、はやくってば!」

臣太郎「麻英子・・さん・・・麻英子・・さん・・もういい・・・もういいよ」

麻英子「もういいって!何がいいのよ。いいわけないでしょ!」

臣太郎「もういい・・・もういいよ・・・奴らの目的は僕なんだ・・・麻英子・・さん・・だから・・・」

麻英子「ごちゃごちゃ言ってないではやく!はやく走りなさいよ!」

臣太郎「だから・・・もう、僕をここに置いていってくれ・・・」

麻英子「そうはいかないわよ」

臣太郎「麻英子・・・僕はもうこれ以上走れないよ」

麻英子「何弱音はいてんのよ!はやくはやく、はやくったら・・・」

臣太郎「麻英子・・・何故だ、何故僕にこだわる?何故僕を助ける?何故僕を走らせる?何故僕のことを連れ去ろうとする?何故!」

麻英子「私があんたにこだわる理由も、あんたを助ける理由も、あんたを走らせる理由も、あんたを連れ去る理由も、たったひとつよ」

臣太郎「それは・・・それは何?」

麻英子「あなたの頭の中には、私が好きだった人の脳味噌が入っているからよ」

臣太郎「それでも・・もう、どうしようもな

い・・僕の・・僕の思い出は・・僕の記憶は戻らない・・」

麻英子「どうすれば・・誰に頼めば・・なにに祈れば・・私はどうすればいいの?」

井上「そんなに祈りたければ、流れ星にでも、祈るがいい」

  と、やってくる井上と土屋。

麻英子「流れ星?」

井上「よく言うだろう・・流れ星に三回願い事を唱えるとかなうってね」

土屋「それって効果あるんですか?」

井上「それがいやならおとなしく観念しなさ い」

土屋「しかし、あんたも、そうとうしつこいですね」

麻英子「(後ろを見て)ダメ!追いつかれちゃう・・(と、麻英子、辺りを見回し)車!乗って!」

  と、近所に停めてあった車に乗り込んだ。

  最初は麻英子が運転する。

  そして、走り出す車。

井上「あ、くそっ!よおし!じゃあ、こっちも車だ」

土屋「はい!」

  と、井上達も車に乗り込む。

  以下、時間の許す限り、ちょろいチェイス。

  だが、やがて・・井上の車は麻英子の車に何度もぶつかってきて、麻英子の車に追いつきそうになる。

麻英子「だ、だめ・・ここまでなの?」

  その瞬間、臣太郎が、ハンドルを奪い。

臣太郎「ハンドルを・・貸して!」

  と、アクセルを踏み込んだ。

  突然、三倍のスピードが出て、小回りが二倍になる。

井上「う、うそ・・なにが起きたの?」

土屋「運転してます・・フランケン君が!」

井上「運転、どうして?」

臣太郎「(車の音)ぎゃあああああん!」

  と、ひたすら加速していく。

麻英子「運転は、覚えているの?」

土屋「運転は体が覚えているんでしょうかね」

井上「なに言ってるのよ、馬鹿ね。体は別の人間の体じゃないの」

土屋「あ、そうだ」

麻英子「だとしたら・・だとしたら・・記憶は完全には消去されていないんだ、まだ、残っているのね・・きっと・・私達の思い出が・・あなたの・・どこかに・・」

臣太郎「だめだ・・曲がりきれない」

麻英子「臣太郎!」

  そして、車、クラッシュする。

  同じく、少し離れたところで、井上の車もクラッシュする。

  (このことにより井上と土屋はすぐにはフランケンシュタイン達に近づくことができない)

  麻英子、ぐったりしている。

  車の間から抜け出した臣太郎は麻英子を抱きかかえる。

  しかし、麻英子、反応がない。

臣太郎「麻英子・・さん・・麻英子・・さん・・うお・・うおおおおお・・」

  と、宙に向かって叫ぶ。

臣太郎「麻英子さんは・・もう、戻らない・・のか・・どうすれば・・誰に頼めば・・なにに祈れば・・僕はどうすればいい?・・・流れ星よ・・どうか・・この子を・・どうかこの子を・・」

  そして、しばし止まっている二人。

臣太郎「ここまでか・・どんなにがんばっても・・ここまでか・・・僕達は・・」

  と、はけちゃう臣太郎と麻英子。

拓弥「あれ?流れ星は?」

賀屋「流れ星はどうしたの?」

拓弥「え、なに、これで流れ星が降らなかったら・・救いがないじゃない・・ねえ・・ちょっと、流れ星はどうしたのよ」

賀屋「撮れなかったんだ・・流れ星・・」

  と、駆け込んでくる臣太郎と麻英子。

臣太郎「今、映画やってませんでしたか?」

麻英子「映画、私達が今作っている映画」

拓弥「あ!(と、指さして)すごい不思議な感じ・・」

毛利「さっき見てた人達が・・・いる」

臣太郎「ラストシーン、どうでしたか?流れ星は降りましたか?」

麻英子「最後の大流星群は?」

拓弥「え、いや・・流れ星はねえ・・」

毛利「流れ星・・・ってあったかなあ・・」

麻英子「降ってなかったんですね・・」

賀屋「(わかりやすく)流れ星は・・これってはっきりわかる形では・・(拓弥達に同意を求め)ねえ・・」

拓弥「ん・・まあ・・」

麻英子「(臣太郎に)やっぱり・・ダメだったんだ」

拓弥「あれ、なんでないの、最後に大流星群が降ってこないと話終わらないじゃない」

麻英子「そうなんです・・・でも・・」

臣太郎「撮影できなかったんです」

賀屋「なんで?こう流星が降っている時に行って撮ればいいじゃない・・」

拓弥「賀屋ちゃん、そんな事言っても無理だよ・・まだこの時代の人達には時間旅行の概念がないんだから」

賀屋「でも、千九百九十八年の人達なんでしょう?」

臣太郎「そうですけど」

賀屋「あの頃、一度、大流星群が降ったじゃない」

臣太郎「大流星群?いつですか?」

賀屋「確か、私が小学校の一年生くらいの時だったと思うけど・・」

拓弥「あった、あった・・アメリカに落ちたやつでしょう」

賀屋「そうそう、それそれ」

毛利「あった、あった・・・」

賀屋「それを撮ればいいのに」

麻英子「それはいつですか!」

臣太郎「それはいつですか?千九百九十八年の、何月何日ですか!」

賀屋「いつだったかな・・ちょっと待ってて、今、インターネットで検索してみるから」

  と、賀屋、はける。

  帰ってくるよしと瀧本。

よし「時間管理局の方、だめでした」

拓弥「ふふうん・・やっぱりダメだったでしょう」

瀧本「申請が降りるまでに最低でも二週間はかかるし・・今回みたいな特別な場合は、許可が下りる可能性は低いって・・言われて」

拓弥「やっぱりなあ・・」

臣太郎「あの・・僕達は・・どうなるんでしょうか・・」

麻英子「タイムマシンで帰してもらえるんですよね。千九百九十八年に」

よし「・・・タイムマシンは使えません」

麻英子「どうして?」

よし「我々が使っているタイムマシンはリミッターがついていて、それは時間管理局の認可と暗唱番号がないと・・」

臣太郎「リミッター?」

麻英子「リミッターがついていないタイムマシンはないんですか?」

よし「・・・それは」

  と、拓弥の方を見た。

拓弥「な・・なに?」

よし「タイムパトロールが持っているタイムマシンだけは、リミッターがついていません」

毛利「リミッターなんかついていたら、次々に違う時間に逃げていく奴を捕まえることができないからね」

  と、賀屋、プリントアウトした流星群が映っている写真を持って入ってくる。

賀屋「あった・・これこれ、ほら、大流星群が降るのよ」

臣太郎「いつですか?」

賀屋「(読み上げて)千九百九十八年十一月二十四日・・」

臣太郎「千九百九十八年十一月二十四日っていったら・・」

麻英子「今日だ」

賀屋「え?いや、だから今日はですねえ・・二千十三年の」

よし「だから、それ言っちゃダメだって」

臣太郎「今日の夜に戻れば・・ラストシーンが撮影できるんだ」

賀屋「行きましょう、みんなで。千九百九十八年の十一月二十四日へ」

一同「ええっ!」

賀屋「大流星群を見に」

よし「でも、タイムマシンは・・」

賀屋「だって(と、拓弥達を示し)この人達なら一人一台づつ持ってるはずでしょう」

毛利「そりゃ持ってはいますけどね・・私はそんな目的のためには、自分のタイムマシンを貸したりはしませんからね(と、拓弥に)ねえ」

拓弥「おまえ、帰っていいよ」

毛利「え?」

拓弥「なんかおまえ用事あるとか言ってなかったっけ?」

毛利「え、ええっ!」

拓弥「だからもう帰ってもいいよ、な、帰れ、おまえ」

毛利「あ、ああっ!」

拓弥「なんだよ」

毛利「行く気なんだ・・もう行く気になってるんだ」

拓弥「行く気になっているわけじゃないよ」

毛利「じゃあ、なに?」

拓弥「たまたま、これからタイムマシンのスイッチが入っちゃって・・誤作動するだけだもん」

毛利「それでたまたま千九百九十八年に行くわけですか?」

拓弥「そういうこと・・だからおまえ、もう今日は帰っていいよ」

毛利「やだ!」

拓弥「なんで?」

毛利「私だって行きたいもん!」

  間。

拓弥「(決心した)これはあくまでもタイムマシンの誤作動だ。いいな。よって向こうに滞在できる時間は極端に短い。でないと今度は俺が始末書、書かなきゃなんなくな るからな」

賀屋「じゃ、この二人を元の時間に戻して、流星群を見たら」

拓弥「すぐにバックトゥザフユーチャーだ!」

  暗転。

  明転すると金安家。

  金安と頼子がいる。

金安「・・ここまでだ・・この映画はここまでだ・・ラストシーンの手だてはなく、今日また・・主役が失踪した・・連絡もない・・もしかしたら、俺に・・俺の映画に嫌気がさしたのかもしれない」

頼子「泣き言を言わないで・・あなたが作りたいって言ったのよ・・誰も頼んだわけじゃないじゃない」

金安「それはわかっている」

頼子「だったら、最後までやり通したらどうなの・・」

金安「でも・・どうやって・・」

頼子「映画を作りたいっていう人に会わなくなった・・みんなゲームや漫画や小説に行ってしまう。それはきっと、本当に作りたくて映画を作っている人がいなくなったからだと思う。なにかに妥協し、なにかをあきらめて・・映画が作られている気がする。日本映画に、今、何の魅力も感じない・・おもしろいからっていわれて見に行っても、ほんとのこというと・・全然おもしろくない・・確かにいいドラマかもしれない・・でも、私は映画館でいいドラマを見たいとは思わない。もっと、現実離れした・・大嘘の映画を見たい・・ものすごい嘘を必死についている・・そんな映画が見たいと、ずっと思ってた・・そして、あなたに会った・・あなたはそれをやろうとしていた・・あなたは一本の映画を作るだけじゃないんですよ・・そんな大嘘の映画を作りたいと思っている人達への希望を作り出そうとしているんですよ・・あきらめないで」

金安「あきらめなければ・・なんとかなるのか・・」

  と、電話の音。

  頼子、出る。

頼子「はい・・もしもし・・え?今晩ディープインパクトがある?TVでですか?え?ちがう?」

  と、到着した未来組の人々。

拓弥「はーい、千九百九十八年でーす」

  そして、勢い込んでいる金安達撮影クルーが来る。

金安「キャメラの用意は?」

田中「万全です!」「

麻英子「早くラストシーンのロケ場所へ」

臣太郎「俺達を探してまだあの場所にいてくれたら・・そのまま撮影できるんだが・・」

金安「本当に降るんだろうな・・その大流星群ってのが・・」

井上「間違いないって」

臣太郎「本当に降るんでしょうね・・その台流星群ってのは」

寿枝「それってほんとうにほんとうなんですか!」

賀屋「本当です」

美雨「絶対なんですか!」

千春「絶対よ・・だってナサからの情報だもん」

頼子「ほんとに?」

賀屋「どうして、みんな私の言うことを信じてくれないんですか!」

寿枝「だって・・見てください、空を・・」

賀屋「空?」

  と、見上げる賀屋。

賀屋「うそ・・・うそお・・」

  一同、見上げた。

賀屋「曇ってる・・」

千春「あれ・・あれえ?」

賀屋「だって・・この写真にははっきりと流星群が・・」

毛利「その写真、どこのホームページからダウンロードしました?」

賀屋「どこだっけなあ・・(と、読んでみる)北朝鮮」

よし「北朝鮮?」

瀧本「ひょっとして、北朝鮮は今、晴れてるってことじゃないですか?」

頼子「キャメラの用意」

金安「頼子!」

頼子「人事を尽くして天命を待つ!」

臣太郎「どうするんだよ」

金安「スタンバイしろ!」

寿枝「でも、こんな曇り空じゃ・・」

田中「奇跡でも起きない限り無理か・・」

金安「いいから、スタンバイしろ・・ラストシーンの撮影を始めるぞ」

田中「でも・・・でも、どうやって・・」

金安「確かに、奇跡でも起きない限り、流星群は撮影できないかもしれない・・だったら・・起こすんだよ、奇跡を・・」

田中「な、なに言ってるんですか、監督!」

美雨「そうよ・・やるしかないじゃない」

田中「そんなおまえ・・がんばってなんとかなるものと、ならないものがあるだろうが・・」

金安「臣太郎達はどうした?」

美雨「もう、スタンバっています」

  と、駆け込んでくる臣太郎と麻英子。

  ラストシーンの、麻英子を抱え上げている形になる。

臣太郎「こっちはいつでも大丈夫です」

毛利「ダメじゃない・・これじゃあ、全然見えないじゃない」

拓弥「おっと、タイムマシンのカウントダウンが始まったぞ」」

賀屋「ええ!なにもう私達帰んなきゃなんないの?」

拓弥「残り、二分半です」

賀屋「そんな!」

寿枝「流れ星・・・降り始めましたね・・」

金安「どうしてわかる」

寿枝「ほら、あの向こうの方の雲の切れ間から・・・小さいのが時折・・降っているのが見えるじゃないですか(と、言っている間にも、一つ流れ星が落ちたよう)あ、今また・・」

金安「あれが・・この雲の上を・・・無数に落ちているのか・・」

賀屋「もったいない・・・なんで・・せっかく・・」

頼子「あの遠くの流れ星に祈るぐらいしたらどうなの?」

金安「祈る? なんて?」

頼子「この空が晴れますように」

田中「そんなの祈ったって・・」

頼子「だって、あんた達は流れ星に願えば、かなうかもしれないって言う映画を撮っているんでしょう。その人達が流れ星に願わなくてどうするのよ」

千春「あ、落ちた」

金安「今だ!祈れ!」

賀屋・美雨「この空が晴れますように、この空が晴れますように、この空が晴れますように・・」

よし「だめだ・・」

瀧本「流星って、ほんとに一瞬で落ちるもんですね」

千春「なんか、こういう感じですよね・・ビュン!って」

毛利「あんなに早くちゃ、三回も言えないよ」

  と、賀屋、早口言葉のように、唱えてみる。

  (これは全部きちんと言い終えることができるかどうかの、ぎりぎりのところでやって欲しい。本番十回のうち成功五回、失敗五回でもいい)

賀屋「この空が晴れますように、この空が晴れますように、この空が晴れますように」

井上「この空の、『この』を取っちゃうっていうのはどうですかね・・わざわざ『この空』って言わなくても、空はこの空しかないんだから」

賀屋「それいい!」

寿枝「あ、また落ちた!」

賀屋「空が晴れますように。空が晴れます・ ・」

瀧本「だめだ」

よし「落ちるのが早すぎる」

千春「いや、言葉が長すぎるのよ。空が晴れますようにの、空がっていらないんじゃないかな」

井上「空は空だもんね、晴れるのは空に決まってるんだからね」

金安「じゃあ、晴れますように、で、いってみよう」

田中「それ、真剣にやってもねえ・・」

美雨「お兄ちゃんはだまってて!なにもしないよりはいいでしょう」

田中「なにもしないっていうな! おまえらみたいに無駄なことをしないだけだよ!」

美雨「無駄かどうかなんてわからないじゃない」

瀧本「落ちた!」

賀屋・美雨「晴れますように、晴れますように、晴れます・・」

よし「だめだ」

田中「だめに決まってるだろう」

賀屋「わかった。晴れますように、の、『ますように』もとっちゃおう」

頼子「『ますように』?」

賀屋「晴れ、晴れ、晴れ!これでも意味は通じると思わない?」

美雨「晴れ、晴れ、晴れ」

井上「通じる通じる」

金安「簡潔にして要点だけが表現されている」

賀屋「(練習している)晴れ晴れ晴れ」

美雨「(もまた練習している)晴れ晴れ晴れ!」

拓弥「ああ、みんな!もうタイムマシンの側に集まって!」

賀屋「え、なんで?ちょっと待ってよ」

拓弥「十秒前!」

よし「賀屋ちゃん、早くこっちのそばに」

賀屋「え、待って!流れ星、止まっちゃった?」

頼子「落ちない・・さっきまであんなに落ちていたのに・・」

賀屋「早く、早く!一個でもいいから・・」

拓弥「五秒前」

賀屋「ちょっと待ってってば!」

よし「待てないよ」

拓弥「三秒前!」

寿枝「落ちた」

頼子「流れ星!」

金安「今だ!」

賀屋・美雨「晴れ晴れ晴れ!」

  一瞬、間があるが、

賀屋・美雨「(顔を見合わせて)言えた、全部言えた!」

  その近づきすぎている美雨を突き飛ばすよし。

よし「こっち来ちゃダメ!」

拓弥「バックトゥザフユーチャー!」

  SE どっかーん!

  暗転。

  明転するとそこは二千十三年。

  脱力したようにいる未来の人々。

拓弥「結局・・流れ星の撮影ってのは・・できたのかな」

瀧本「それにしても、ずいぶんあわただしい時間旅行でしたねえ」

よし「流れ星が落ちる間に・・願い事を三回繰り返す・・・か・・願い事、かなっているといいね・・」

賀屋「あっ!」

よし「なに?」

賀屋「ビデオを見ればいいんだ!ビデオ・・さっき、ラストシーンで停めたまんまじゃない」

拓弥「そうか・・・ビデオを見れば・・」

  と、賀屋、ビデオのリモコンをつかんで再生を再開する。

賀屋「ラストシーン!麻英子とフランケンシュタインの乗った車がクラッシュした後」

拓弥「瀕死の麻英子を抱きかかえるフランケンシュタイン」

  この前の二つの台詞の間に臣太郎と麻英子は形になっておく。

賀屋「そして、キャメラはフランケンシュタインの頭上を映す」

一同「ああっ!」

賀屋「見て! 空が・・空が・・晴れてる!」

  そして、劇中劇の芝居が始まる。

臣太郎「(叫ぶ)流れ星よ!」

賀屋「流れ星が・・降ってる!本物の流れ星が・・降ってる!」

臣太郎「どうかこの子をお救いください。どうかこの子をお救いください。どうかこの子をお救いください・・」

  流れ星・・落ちている。

  臣太郎の腕の中の麻英子が、少しうめき・・やがて顔を上げた。

賀屋「間に合った!」

麻英子「臣太郎・・・」

臣太郎「麻英子!(叫ぶ)麻英子!」

賀屋「記憶が戻ってる! フランケンシュタンの記憶も戻ってる!」

  臣太郎、麻英子を抱きしめた。

  曲、カットイン。

  照明、変わって・・

金安「カット!」

  という声で、全員が登場し、フランケンシュタインの臣太郎と麻英子を囲み。

全員「オッケーです!」

  全員、その形のままストップモーションで。

  曲、再び盛り上がり。

  ゆっくりと暗転していく。

  そして、再び明転すると、この文字。

  『To be continued』            おしまい。

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