『あした晴れたらどこでもドアで』
作・じんのひろあき
客電が落ちて、
真上からの三条のスポットに浮かび上がる三人のシルエット。
曲が落ちて、
声。声「307Dの3号。フラン・カーマイン、二千百九十六年、タイタン生まれ。G級星間輸送船強盗二件、T級恒星間自家用機強奪一件、宇宙ステーション未許可着岸、危険物、爆発物持ち込み二十二件、脱獄一件。懲役九十九年。以上、間違いはないな」
そして、カーマインの顔がはっきりと見えた。
カーマイン、ぷいと横を向いた。声「フラン・カーマイン、以上の罪を認めるな」
カーマイン「認めねーよ。バカ野郎。一刻も早くここから釈放しろ!でないと私のパパが黙っちゃいねーからな、私のパパはな、宇宙海賊の・・・」バシャ! と、いう音と共にカットアウトされる。
そして、カノンの顔が浮かび上がる。声「986Tの3号。メイズ・カノン。CIAマース、IBMジュピター等、二百二十三件のハッキングにより、情報の窃盗、横流しにより、総額四兆八千億円の損害、国家機密保持法違反、治安維持法違反、世界インターネット憲章違反、通貨及び証券データベース偽造取締法違反、計、懲役七十九年。以上、その罪を認めるな」
カノン「認めません。盗まれて悪い物なら、もっと大事にしまっとけばいいでしょう。私にハッキングできないようにプロテクトするんだね」バシャ! という音と共に、照明は正面奥に立つヲミル・アンカーへ。
声「ヲミル・アンカー、生物兵器不法所持、宇宙航空法違反、公共物破損、都市破壊防止法違反、電脳犯罪取締法違反・・懲役百三十一年。以上、その罪を認めるな」
アンカー「認めます・・・それで、なにをやればいいんだ?」
声「なに?」
アンカー「なんにもないのに、こんなところに、重犯罪人を三人も呼び出すわけないだろう」
声「君達に任務を与える。もしも無事にその任務を遂行して帰ってきたら、恩赦として、君達の罪を帳消しとし、自由の身としてやる」
カーマイン「ほんとに?」
声「もちろんだ」
アンカー「で? 俺達は何をすればいいんだ?」
声「二十二光年先先の惑星へ行ってもらいたい」
カノン「二十二光年先に? どうやって?」
カーマイン「普通に行ったら、行って戻ってくるだけで人生終わっちゃうじゃない・・その後で自由になったからって・・」
声「瞬間物質輸送システムを使えば一瞬だ」
カーマイン「瞬間物質輸送システム?」
カノン「でも、あれはまだ実験段階じゃ・・」
声「だから、もしも無事任務を遂行し帰ってきたら、恩赦として自由を与えるというわけだ」
アンカー「人間で初の実験ってわけか」
声「後ろを見ろ・・」と、その三人の向こうに浮かび上がるドアの枠。
声「そのドアをくぐれば、二十二光年先の惑星が待っている。そこは地球と同じ重力、地球と同じ気候の星だ」
アンカー「そこで俺達はなにをするんだ?」
声「二十二光年先の惑星に人類が増えすぎた人口を移民させるプロジェクトがスタートしてすでに八十年が過ぎた。地球以外の環境で人類はどのように成長するのか・・その一部始終を記録している教育型ロボットがいる。そのメモリーを回収してきてもらいたい」
アンカー「俺達が行かなきゃんないほどの仕事だとも想えないな・・」
声「ただし、その惑星からの通信が途絶えて久しい・・」
アンカー「なるほどね・・何が起きたのか・・そいつも調べてこいってわけか・・」アンカー、両脇の二人に、
アンカー「じゃあ、誰が一番にあのドアをくぐる?」
カーマイン「え、そんな・・(と、カノンに)どうぞお先に」
カノン「いえ、そちらこそ」
アンカー「普段はレディファーストだけど、そんなことも言ってらんないみたいだな・・じゃ、お先に」そのドアに向かいつつ、
ゆっくりと暗転し、
メインタイトル。
『アニメックスVOL0’』
SE 風の吹きすさぶ音。
照明 ゆっくりと溶明していく。
だが、完全になにもかもが見えるような明るさにはならない。
その中に立つアンカー、カノン、カーマイン。アンカー「地球と同じ直径で、星の内部も地球と同じ成分ならば、重力は地球と同じになる・・・それは間違っちゃいないが・・」
カノン、見渡して、
カノン「地球と同じ気候って・・こんな、ブリザードが吹き荒れてて、こんなに寒くて、こんなに厚い雲が・・あんな遠くまでたれ込めてるじゃない」
カーマイン「さあ、その移民の人達はこんな惑星のどこに住んでるんだろうね」
カノン「寒くないの? ちょっと、信じらんない、この気候」
カーマイン「寒いって、この程度、星から星に旅してたら、当たり前よ。あんた、絶対零度の恐ろしさを知らないの?」
カノン「知らない」
カーマイン「え? なんで?」
カノン「なんでって・・私、地球から出たことないもの」
カーマイン「なんで?」
カノン「なんでって、今まで地球から出る必要なかったから」
カーマイン「信じらんない・・私、木星のアステロイドで生まれて、これまでずっと宇宙暮らししかしたことないもの」
アンカー「移民団の都市ドームは?」
カノン「今、ナビで検索してるんですけど、反応が」
カーマイン「ないの?」
カノン「ええ・・もしかしたら、私達は目的の惑星ではないところに送り込まれちゃったの?」
カーマイン「そんな!」
カノン「でも、あの瞬間物質輸送機はまだ、テスト段階だったし、人間を何光年もの長距離に飛ばすなんて、初めてだから」
カーマイン「そういうことなの・・あ、わかった」
カノン「なにが?」
カーマイン「銃、撃ったことある?」
カノン「ないわ」
カーマイン「銃を撃つとき、手元で一ミリ狂うと、もう数百メートル先では、何十メートルってちがってきちゃうのよ・・・・だから」
カノン「瞬間物質輸送機の誤差が」
カーマイン「私達を別の惑星に送り込んだのよ」
アンカー「瞬間物質輸送機に誤差が生じて、こんなふうに地球とほとんどおなじ環境の惑星に偶然飛ばされることがあるとも思えないな・・・結局、八十年前に増えすぎた人口を他の惑星に移民させるために、地球と同じ環境の惑星を探して、こんな二十光年以上離れている惑星を見つけたんだ。そんなに、地球と同じ環境の惑星がたくさんあるなら、彼らも苦労はしなかったはずだ」
カノン「じゃあ、やっぱりここは」
アンカー「たぶん、目的の星だ」
カノン「こんなブリザードが・・」
アンカー「環境が急激に変化したんだ・・なにかの要因で・・」
カーマイン「移民の人達の都市ドームの反応がないのも?」
カノン「もしかして」
アンカー「機能を停止しているからだろう」
カノン「そうか、機能が停止している街で検索すればいいんだ」
カーマイン「どういうこと?」
アンカー「街が・・滅んでいる可能性もあるってことだ。まいったな・・地球と同じ環境・・・って言われて来てみりゃ、氷河期かよ」
カーマイン「これじゃあ、その教育型ロボットっていうのも・・」
アンカー「教育型ロボットを回収して帰るつもりだったのか?」
カーマイン「だってそうすれば、今までの懲役を」
アンカー「甘いな」
カーマイン「え?どういうこと?」
アンカー「なんだかんだ言われて、またどこかで、危険と背中合わせの仕事をさせられるだけだよ。奴らはそういう奴らだ」
カーマイン「こういう仕事、初めてじゃないの?」
アンカー「捕まる事もある。そして、一度はやつらのいいなりに仕事をしてやる。それが信用になる。次に仕事を与えられる。その時がチャンスだ。俺は、それを繰り返しているだけだ」
カーマイン「じゃあ、教育型ロボットの回収なんて」
アンカー「地球から二十光年以上離れた星で、誰にも追われずに、一生暮らせると思ったのにな・・」
カーマイン「じゃあ・・・」
アンカー「早いとこその教育型ロボットってのを見つけだして、こんな殺風景なところ、おさらばしないと・・」
カノン「移民達のドームの場所、出たわ」
アンカー「どこだ?」
カノン「近い・・すぐそこよ。ここから東に一キロもない・・」
アンカー「もしも、晴れていたら・・すぐそこに見えるはずだな・・」
カノン「のはずだけど」
アンカー「行ってみるか・・」と、向きを変えドーム都市の方向を向いた瞬間、
カノン「待って!」
アンカー「どうした?」
カノン「なにかが来る?」
カーマイン「なにか? なにかって?」
カノン「ものすごいスピードで」
アンカー「空を?」
カノン「いえ、地面を・・走って!」と、その三人の後ろに高速で走るラハイロが現れる。
アンカー「生存者か」
カーマイン「生存者?」
アンカー「ドーム型の都市は機能を停止しているが、それでも、どこかで移民達は生き延びてるってことか」
カノン「いったい、どこで・・こっちには全く反応がないのに」
アンカー「それは・・・あいつを捕まえて聞いてみりゃわかることだよ」と、アンカー、少し準備運動らしきことをする。
カノン「時速・・二百キロ近い・・」
アンカー「オーバードライブターボ」
カーマイン「なにそれ」そして、ラハイロの足が発する機械音が急速に高まり、ラハイロはアンカー達のすぐ側を駆け抜けていく。
アンカー「それ持っているの、自分だけだと思うなよ」
アンカー、同時にダッシュする。
しかし、アンカーとラハイロはフォームからして違い、ラハイロとアンカーの距離、みるみる開いていく。カノン「ヲミル・アンカー!」
カーマイン「ダメ・・全然ダメじゃない」そして、ラハイロは走り去る。
それでもまだ走っているアンカー。アンカー「これ、少し暖めないと・・いきなり初速から時速二百キロってわけにはいかないでしょう・・そんなことしたら下半身と上半身がバラバラになっちゃうからね!」
と、アンカーの言葉通り、走るアンカーの足からも、さっきのラハイロが発していた機械音が聞こえてくる。
その音が大きくなるに従って、アンカーの走るフォームも変わってくる。カーマイン「あ、早くなった」
カノン「ターボが入ったんだ」
カーマイン「ターボ?」
カノン「オーバードライブターボ。高速移動用の加速装置よ。あなた宇宙海賊の一人娘なのにそんなことも知らないの?」
カーマイン「知るわけないでしょう。宇宙空間ってね、普通走ったりしないんだから」と、去るカノンとカーマイン。
××××××
走るラハイロ。
ふと、その後方からみるみる追い上げてくるアンカーの姿。
ラハイロ、気づいた。
そして、アンカー、並んだ。ラハイロ「だ、誰だ?」
アンカー「ヲミル・アンカー・・地球から来た」
ラハイロ「地球から? そんなばかな・・」
アンカー「本当だ」
ラハイロ「ここは地球から二十光年以上離れているんだぞ」
アンカー「街はどうした? 移民達の街はなぜ機能を停止した? 生存者は今、どこにいるんだ?」
ラハイロ「来るな、ついて来るな!」
アンカー「なに?」
ラハイロ「俺について来るなと言っているんだ!」
アンカー「どういうことだ?」
ラハイロ「こっちは危険だ!」
アンカー「なに?」ラハイロ、すっと、構えたかと思うと、アンカーに一撃を食らわそうとする。
だが、アンカー、それを間一髪のところで避ける。ラハイロ「来るな、来るなと言っているのがわからないのか?」
アンカー「ここでおまえを逃したら、我々はこブリザードの中で立ち往生だ」そして、二人はそのままのスピードで針葉樹林の海へと突入した。
木々を避け、走る二人。
やがて森を抜けた二人、だが、その目の前は断崖絶壁!
ラハイロはこの地形を知っていたのか、断崖をまるでスキーの滑降競技のように滑り降りていく。
だが、不意をつかれたアンカーは、急ブレーキを掛けたものの断崖に飛び出してしまい、なんとかして下の岩場に着地した。
多少、膝を痛めたようだが、それでも、執拗に疾走するラハイロについていく。ラハイロ「よく着地したな・・」
アンカー「道がないなら道がないと一言言ってくれてもいいんじゃないの?」走る二人。
岩場は亀裂が縦横に走り、その亀裂の底を走っている。
まるで巨大なボブスレーのコースのようである。
そして、ついに二人はその岩場からも抜け出る。アンカー「止まれ!」
ラハイロ「そうはいかん」
アンカー「どこへ行くんだ!」
ラハイロ「時間がないんだ」
アンカー「時間がない?」
ラハイロ「時間がないんだ!」そして、走っていくラハイロ。
追う、アンカー。
そして、ある場所まで行くと、ラハイロは叫ぶ。ラハイロ「コミテネ! コミテネ! どこだ? コミテネ!」
舞台、前に現れるラハイロの目的、コミテネ。
コミテネはこの惑星特有の生物マリント(鳥類とほ乳類の中間生物だが、かなり大きな生物ではある。文楽式で動かすかコミテネが手を突っ込んでそれで動かすマペット式になるかは脚本を書いた時点では未定)を抱いている。コミテネ「しっかり・・・マリント・・しっかりしなさい・・・おまえが死んだら、おまえの種はこの星から絶滅するんだから・・しっかりしなさい・・すぐに暖かいところに連れていって上げるからね・・そこにはおまえと同じマリント種の雌もいるんだから・・」
そして、コミテネがいる場所にたどり着いたラハイロ。
ラハイロ「コミテネ!」
ラハイロは急ブレーキを掛けて奇跡的にコミテネの側で停まった。
コミテネ「ラハイロ!」
しかし、心の準備ができていなかったアンカーは通り過ぎてしまう。
アンカー「停まるのかよ、おいぃぃ!」
ラハイロ「コミテネ、ここにいたのか」
コミテネ「ラハイロ・・この子、とうとう見つけたのよ、かなり弱ってるけど、マリント種の雄・・生まれたばかりなの・・しかも、孵化していない卵も・・」
ラハイロ「逃げるんだ、コミテネ、ここから、一刻も早く!」
コミテネ「どうしたの、ラハイロ?」
ラハイロ「このすぐ側に・・落ちるらしい」
コミテネ「隕石が?」
ラハイロ「ああ、まもなく、急げ!」と、コミテネ、その弱っているマリントをラハイロに押しつけて、
コミテネ「この子をお願い・・箱船が完成したら、必ず雌のマリントと一緒に乗せたいの」
ラハイロ「なにを言っているんだ。俺は君のことが心配で・・」
コミテネ「ありがとう・・でも、助けるならまずこの子をお願い・・行って、早く・・隕石、落ちて来るんでしょう」
ラハイロ「逃げるんだ、早く」
コミテネ「でも、卵が・・」
ラハイロ「君はどうなる?」
コミテネ「行って・・私はできるだけここで卵を守ってみる」
ラハイロ「そんな・・」
コミテネ「私なら大丈夫、そう簡単に死にはしないから・・後でまた地下都市で会えるから・・行って、早く」後ろ髪を引かれつつもマリントを抱いたラハイロはその場を後にする。
それと入れ替わるように入ってくるアンカー。コミテネ「あなたは?」
アンカー「アンカー、ヲミル・アンカー・・地球から来ました」
コミテネ「地球から?」
アンカー「さっきの人は?」
コミテネ「避難しました」
アンカー「避難?」
コミテネ「まもなくこの付近に隕石が落下してくるんで」
アンカー「隕石が落下?」
コミテネ「あなたも・・早く逃げた方が」
アンカー「君は?」
コミテネ「私は・・この卵を守らないと・・これはこの星の生物の卵なんですけど・・もうこの惑星上にはこれだけしか残っていないんです・・だから・・早く、この場を離れた方がいい・・隕石が落下すると地表の土を巻き上げ、しばらくは砂の混じったブリザードが吹き荒れることになる。そうすると視界もきかなくなります」
アンカー「隕石は、もうずいぶん前から・・」
コミテネ「ええ・・おかげで私達のドームシティは・・」そして、次第に隕石の落下の音が響いて来る。
キイイイイィィィィ・・・
隕石、着地した。
地響きが・・・
咄嗟に、アンカーはコミテネをかばった。
そのまま、暗転。
明転するとそこは、
ドーム都市・内
寒そうに一人カーマインが座っている。
駆け込んでくるカノン。カノン「カーマイン」
カーマイン、面倒くさそうに手を挙げてそれに答え、
カーマイン「ああ・・」
カノン「(自分が見てきた方を示し)こっち全然ダメ・・・人の姿もないし、セキュリティシステムが作動してるんだと思うけど、簡単にビルの中には入れない。まあ、入れたとしても、人の気配なんかないけどね・・・・そっちは?」
カーマイン「こっちも・・」
カノン「やっぱり同じ?」
カーマイン「うん、たぶんだめ」
カノン「たぶん? たぶんってなに?」
カーマイン「私、寒いのほんとは苦手なのよ・・・暑いのも苦手だけど・・・」
カノン「見てきてないの?」
カーマイン「ちょろっと見てきたけど」
カノン「けどなに?」
カーマイン「ダメそうだから・・・ここでやめた・・・確かに、この都市は機能を停止してるよ」
カノン「そんな、ちゃんと見てきてもいないのに?」
カーマイン「たぶん、住宅だと思うけど、透明なテクタイトの窓があって、覗いてみたら、子供部屋だった。読みかけの本が開きっぱなしになっていて、プラスチックのお皿にひからびた食べ物が載ってた・・・・たぶん、この街の機能は一瞬にして停止して、住民はどこかに緊急避難したんだよ」
カノン「どこかって?」
カーマイン「それがわかれば・・・・たぶん、私達が探している教育型ロボットってのも、その住民達と一緒にいるはずよ・・・ヲミルから連絡は?」
カノン「まだ」
カーマイン「捕まえたかなな、さっきのやつ・・でないと手がかりがもう・・」と、唐突にサイレンが鳴り響く。
カーマイン「な、なに? サイレン?」
カノン「サイレン? え? だってこの街は機能を停止しているんじゃ・・」
カーマイン「なにか・・・起きたの?」
カノン「なにか、起きるのかもよ・・・・いつまでも寒がってないで・・・ほんとに冷たくなっちゃうよ」
カーマイン「そういう冗談嫌いなんだけど」と、あたりを用心して見回す。
カノン「油断しないで・・・・」
と、飛び込んでくるアシータ。
アシータ「なにやってるの、あんた達!」
カノン「へ?」
アシータ「鳴っているでしょ、警報が!」
カノン「警報?このサイレンのこと?」
アシータ「このままずっと地上にいたら凍え死んでしまうよ」
カーマイン「もう凍え死にそうだったよ」
アシータ「早く避難しなさい!」
カノン「避難? 避難ってどこへ?」
アシータ「地下都市に決まってるでしょう。さあ、早く」
カノン「地下都市?」
アシータ「地下都市に決まってるでしょう、さあ、早く」
カノン「(カーマインに)地下都市があるんだ」
カーマイン「住民はみんな地下都市に避難したの?」
アシータ「地下都市に決まってるでしょう、さあ、早く」
カーマイン「じゃあ、そこへ行けば」
アシータ「地下都市に決まってるでしょう、さあ、早く」
カノン「待って・・」
カーマイン「なによ」
カノン「(と、なにかアシータに向かって言いかけるカーマインを止めて)話しかけないで・・」そして、アシータの様子を見る。
アシータ、やっぱりさっきと全然テンションを変えないで、アシータ「地下都市に決まってるでしょう、さあ、早く」
カノン「やっぱり」
カーマイン「え? なにがやっぱりなの?」
カノン「地下都市はどう行けばいいの?」
アシータ「こっち、こっち!」と、駆け出す。
カノンとカーマイン、後について行きながら、カーマイン「なんなの?」
カノン「これ、人間じゃない」
カーマイン「え? そうなの?」
カノン「アンドロイドだ・・」
カーマイン「アンドロイド?」
カノン「しかも、かなり型は古い」
カーマイン「なんでわかるの?」
カノン「簡単な会話はできるけれど、会話がかみ合わなくなると、同じ事をループし始めるのよ・・・自分に対して返事してくれるまで『地下都市に決まってるでしょ、さあ、早く』って・・」
カーマイン「今、会話、かみ合ってたじゃない」
カノン「かみ合ってなかったでしょ」
カーマイン「かみ合ってたじゃない」
カノン「かみ合ってなかったよ」
カーマイン「かみ合ってたじゃない」
カノン「かみ合ってなかったよ」
カーマイン「かみ合ってたじゃない」
カノン「かみ合ってなかったよ」
カーマイン「かみ合ってたじゃない」
カノン「かみ合ってなかったよ」
カーマイン「嘘ぉ・・」と、とある建造物の前でアシータが止まった。
アシータ「ここです・・早く」
カーマイン「(見上げて)なにこれ・・・」
アシータ「ここです・・早く」
カーマイン「なんなのよ、これ」
アシータ「ここです、早く」
カーマイン「いや、だからあ・・」と、カノンがカーマインを突っついて、会話の見本を見せる。
カノン「ここで、どうするの?」
アシータ「そこに手をつけて・・指紋の照合をして・・こっちにこうやって目を近づけて・・虹彩の照合を」と、その場所に手を当てるカーマイン。
カーマイン「こうするのね」
アシータ「そうです、そうしたらピンポン!って音がして・・」だが、『ブー』という音。
カーマイン「これがピンポン?」
カノン「誰がどう聞いてもピンポン! じゃないよ・・(と、アシータに)これ、どういうことなの?」
アシータ「あれ、おかしいなあ・・」
カーマイン「(カノンに)やってみて」カノン、やってみる。
やはり同じく『ブー』の拒否音。カノン「ダメだ」
カーマイン「(アシータに)これ、どういうことなの?」
アシータ「おかしいですねえ。この指紋照合機には、この惑星に住む全ての人々の指紋が登録されているはずなのに・・・」
カーマイン「惑星に住む、全ての人々?」
カノン「じゃあ、あたし達の指紋は登録されているわけないじゃない」
カーマイン「私達は地球から来たんです」
アシータ「私達も地球から来ました。この星の全ての人々、そして全てのロボットも、みんな、最初は地球からやってきました」
カーマイン「いや、そうじゃなくて」
カノン「ダメだ。そんな事、言ってもこんな旧式のアンドロイドの頭じゃ理解できないよ」
カーマイン「じゃあ、どうすりゃいいのよ」
アシータ「私達も地球から来ました。この星の全ての人々、そして全てのロボットもみんな最初は地球からやってきました」
カーマイン「それはわかったって・・(カノンに)これ、いちいち『わかった』って言わないとずっと繰り返してるのかな」
カノン「私達の指紋が登録されていないの・・そういう場合はどうすればいいの?」
アシータ「そんな事はありえません。ここにはこの星の全ての・・」
カノン「じゃあ、そのシステムが故障しているとしたら?」
アシータ「故障している?」
カノン「そう、故障しているとしたら、他にその地下都市に入る方法ってないの?」
アシータ「ああ・・・ねえ」
カーマイン「ないの? それ以外の方法って?」
アシータ「・・・ん・・・ないかな」
カノン「こいつ、旧式のくせにごまかすことは知ってるよ」
カーマイン「さみぃ・・ほんとに凍え死んじゃうよ」
カノン「せっかく地下都市の入り口が・・ここにあるってのに・・」
カーマイン「(アシータに)さみぃよ、なんとかできないの?」
アシータ「なんとかしましょうか?」
カーマイン「なんとかできるの?」
アシータ「ええ・・・まあ」
カノン「どうするの?」
アシータ「じゃあ、私の体に触ってください」と、言われるままに触ってみるカーマイン。
カーマイン「あ、温かい・・」
カノン「え? ほんとに?」と、カノンも触ってみる。
カノン「ほんとだ・・」
カーマイン「ヒーターの機能もあるんだ」
アシータ「違います・・今、電圧を上げて体全体でオーバーヒートしているところです」
カノン「え? 大丈夫なの? そんなことして」
アシータ「大丈夫じゃありません。でも、寒いっていうから」
カーマイン「いや、寒いことは寒いんだけど、そういうことしろって言ったわけじゃなくてね・・他に方法が・・」
アシータ「あ! まもなく落下します」
カノン「落下? なにが?」
アシータ「隕石です」
カーマイン「隕石? 隕石ってなによ」
アシータ「この街を破壊した物です。隕石群がこの星に近づいていて・・・ずっと降り続いているんです・・・それの・・・おかげで・・この星はクレーターだらけになって・・砂を吹き上げ、大気を汚染し・・・太陽光が・・届き・・にくくなったために・・・こんなにも・・温度が下がり・・人々は・・地下都市へ・・」
カーマイン「おい、ちょっと、しっかりしろよ・・」
アシータ「少しは・・・温まりましたか?」
カノン「温まったよ・・でも、しっかりして」
アシータ「よ・・・かった・・もう、あまり・・考えられなく・・なって・・きました」
カノン「しっかりしろ・・」
カーマイン「待て待て待て待て・・そんな、登場してきてすぐ死んじゃうのか?」
カノン「なんで・・そんなことするの」
アシータ「我々ロボットは、二十世紀の中頃に考えられた・・ロボット三原則に基づいて・・動いています・・ロボット三原則をご存じですか」
カノン「知ってるよ、そんなの」
アシータ「第一条・・ロボットは・・」
カーマイン「知ってるって言ってるだろう」
アシータ「言いたいんです、言わせてください・・・第一条、ロボットは人間を守らなければならない。第二条、第一条に反さない限り、ロボットは人間の命令を聞かなければならない。第三条、第一条、第二条に反さない限り、ロボットは自分の身を守らなければならない・・・それがロボットの役目です・・ああ、そろそろ・・ダメかもしれない・・」
カノン「おまえ・・おまえ、名前・・まだ聞いてないぞ」
アシータ「な・・まえ? 名前・・は、アシータ」
カーマイン「アシータ?」
アシータ「アシータ・・」
カノン「アシータ・・おまえがここで止まっちゃったら、後、どうすりゃいいんだよ・・」
アシータ「ダ・・イ・・ジョウブ・・誰か・・・来た」
カノン「誰か?」
カーマイン「誰かって?」見回す二人。
と、キイイィィィ!と、オーバードライブターボの音が聞こえてくる。
そして、登場するラハイロ。ラハイロ「なにをしている、こんなところで・・」
と、ラハイロ、言いながらも、指紋照合のプレートに手をかざした。
ピンポン!と、正解の音がしたかと思うと、扉が開く音がする。ラハイロ「入れ! まもなく落下だ!」
カノンとカーマインが飛び込んだと同時に、落下の音。
ズウウウウウウウウウン!
暗転。
明転すると、肩を寄せ合っているコミテネとヲミルがいる洞穴。コミテネ「三年前にこの星に流星群が近づいてきているというニュースを聞いたときは、これほど大変なことになるとは思わなかった。その流星群の中には、小惑星といってもいいくらいの大きさのものが混じっていたけど、それ以外は、どんな惑星にも時々降ってくるような小さな隕石ばかりだった。だから、その小惑星級の物さえなんとかすれば、被害はないというのが、政府の発表だった。でも、実際の被害は降ってくる隕石に当たるとか当たらないとかっていう問題じゃなかったのよ。隕石は大気圏に突入し、空気との摩擦熱で拳大(こぶしだい)くらいになったとしても、その拳大のものが地表に激突すると、直径何キロにもおよぶ巨大なクレーターができるの。そのクレーター分の土が、落下の衝撃によって空に舞い上がった。流星は二日ないし三日おきに降ってきた。それは地球上のどこかで三日おきに火山が噴火しているのと同じことだったの。大気が汚れ、それによって太陽光が遮られ、あっという間に氷河期がきた。あなた、地球から来たって言ってたわね」
アンカー「ああ」
コミテネ「地球でも、昔、あったんでしょ。流星群が降ってきて、大気が汚れ、氷河期がやってきたことが・・」
アンカー「恐竜がうろうろしていた頃の話だよ」
コミテネ「え?」
アンカー「ずっと昔ってことだ・・それで、その流星群の中に一つだけ混じっているっていう小惑星級の奴はどうしたんだ?」
コミテネ「今、爆破作業中よ」
アンカー「間に合うのか?」
コミテネ「わからない・・・だから、最悪のことを考えて、同時に地下都市の建設を始めたの・・そしたら、開発途中で上の都市に隕石が直撃して・・」
アンカー「そりゃお気の毒にねえ」
コミテネ「どのみち、私達は地下都市に避難したとしても、地上がこれじゃあそう長くは生きられないと・・」
アンカー「生きられないって・・それでどうするの?」
コミテネ「できるだけ近くの居住可能な星に移民するつもりよ・・」
アンカー「移民? だって、あんた達は地球から移民してこの星にやってきたんじゃないのか」
コミテネ「私達の意志で移民してきたわけじゃないのよ。私達は送り込まれたのよ・・あなた達、地球人に、この星に強制的に」
アンカー「ま、確かにね・・」
コミテネ「この星の人間は皆、地球人を良くは思ってない」
アンカー「あらあら、飛んで火に入る夏の虫。って、夏でもねえのか(外を見て)ブリザードと砂嵐はずっとこの調子なのか?」
コミテネ「まあ三日はね・・食料なら少し持ってるから・・(と、同じく外を見て)少し天候が落ち着いたら、さっきのラハイロ達が迎えに来てくれるはずだから」
アンカー「そんなには待ってらんないな」
コミテネ「でも、このブリザードじゃ・・」
アンカー「そうだった。君のことばっかりきいてて、俺の話をしてなかったな。俺はこう見えても気が短いんだ」
コミテネ「でも、こんなにブリザードが吹き荒れてるのに・・」
アンカー「大丈夫、これでも方向感覚だけは人一倍あるんだ。今まで迷子になったことがないってのが俺の自慢だ・・さあ、掴まって、ここを脱出しよう」
コミテネ「でも・・ここに卵が・・」
アンカー「それはみんな死んでる」
コミテネ「え? どうしてわかるの?」
アンカー「学生時代に宇宙の珍獣を密輸するバイトをしてたんだよ。その時に、そこの親方から習ったんだ。死んでる卵とそうでない卵の見分け方をね」コミテネ、信じかけているのか、アンカーのどこかに掴まろうとする。
アンカー「それから、もう一つ」
コミテネ「え?」
アンカー「俺についての話だ」
コミテネ「なに?」
アンカー「俺も君達と同じように、この星に強制的に送り込まれたんだ」
コミテネ「え? どういうこと?」
アンカー「さあ、しっかり掴まるんだ。行ってみようかその地下都市ってところへ」コミテネ、しかたなくアンカーに掴まる。
アンカーのオーバードライブターボの音、急速に高まって、ダッシュして、
暗転。
明転すると、
地下都市・通路
幾つかのドアを通過していくラハイロ、カノン、そしてカーマイン。
カノンとカーマインが先頭。
その後ろ、マリントを抱えたラハイロ。
ドア通過の度に指紋の照合プレートに手をかざす。ラハイロ「降ってくる流星群を迎撃するミサイル一つ、レーザー一つここにはない。移民した先で戦争を巻き起こさぬようにといういらぬ配慮のおかげで、我々は降り注ぐ流星群に対してなにもなす術がないままだ。確かに、移民してきた者同士、協力しあって生きて行かねばならず、争っている暇はなかった。我々には敵と呼べる者はいない。地球人を除いてはね。我々は自分達の意志に関係なく、ここに送り込まれ、ここで生まれた」
カノン「私達も強制的にここに送り込まれて・・」
ラハイロ「この地下都市も急ごしらえで、満足に機能はしてない。しかも、人口は過密。本来ならこれ以上、人間を受け入れるわけには行かないのだが・・その言葉を信じて、命だけは助けてやる」
カーマイン「ありがとうございます」
ラハイロ「ただし(マリントを示し)地上のブリザードのおかげで絶滅寸前になっているこいつらと同じブロックに住んでもらう、いいな」と、やってくるアシータ。
アシータ「ラハイロ様、ご無事でしたか?」
ラハイロ「ああ・・だが、コミテネはまだ、外にいる」
アシータ「え! 先ほど、隕石がまたBの5クラスの隕石がまた落下したのに・・」
カーマイン「アシータ!」
アシータ「はい」
カノン「どうしたの?」
アシータ「どうしたの?」
カーマイン「だって、さっき」
アシータ「どうしたの?」
カノン「地表で・・ほら、私達を温めるために」
カーマイン「ショートして」
アシータ「どうしたの?」
カーマイン「あれ、なんか(様子が)変だぞ」
カノン「ダメだ、会話がかみ合ってないのかな」
ラハイロ「地上にいたアシータか?」
アシータ「はい、アシータです」
カノン「地上にいたアシータ? アシータって、いっぱいいるんですか?」
ラハイロ「そうだ」
アシータ「私達は『アシータ型』アンドロイドですから」
カーマイン「あ、会話になってきた」
ラハイロ「フセナは今、どこにいる」
アシータ「Hブロックの603、動物保護地区におります。動物保護地区はこっちです」と、なにかを追っかけるようにして、スカブラーが出てくる。
スカブラー「おっと、おいおいおいおいおい・・・っと」
スカブラー、アシータに激突する。
アシータ「スカブラー!」
スカブラー「アシータ!」
アシータ「なにやってんの、危ないでしょう」
スカブラー「いや、今、そこの動物保護地区で・・・動物達の小屋の掃除と餌やりの仕事をいいつかったんだけど・・・」
アシータ「だけど?」
スカブラー「一匹逃げちゃって」
カノン「逃げた?」
スカブラー「ええ・・・そいつがですねえ・・・猛毒を持っていて」
ラハイロ「猛毒?」
アシータ「猛毒って、ムビラ種か、なにかの?」
スカブラー「(と、カノン達を示して)あれ、こちらは」
カーマイン「地球から来ました」
スカブラー「(さもおおげさに驚いて見せたりする)ありゃ、こりゃまた、地球から・・・」
アシータ「そっちはいいから、猛毒のムビラ種を探すのが先でしょう」
ラハイロ「大きさは?」
スカブラー「大きさ・・・あ、これはラハイロ様・・・コミテネ様は・・・(と、ラハイロの抱きかかえるマリントを見つけ)あ、これ、マリントだ・・・うわ、かわいい」
ラハイロ「「その猛毒の動物の大きさは?」
スカブラー「こんなもん(四センチくらい)です」一斉に探し始める一同。
スカブラー「どっかそのへんをちょろちょろしているはずなんですけど、しっぽに小さな棘がついてて、その棘にはなんと大人百三十人分の致死量の毒が・・」
そして、やってくるミラエル。
ミラエル「スカブラー? スカブラー?」
スカブラー「あ、これはミラエル様」
ミラエル「いたわよ、ムビラ種」
スカブラー「え? どこに?」
ミラエル「トイレ用の砂袋の陰」
スカブラー「そんなとこに・・・うわ、スカブラー一生の不覚」
アシータ「うわ、つかえねー」
ミラエル「だめね・・・やっぱりあんた、ほんとに作業に向いてないよね」
スカブラー「だって、本当はみなさまを楽しませるエンターティメント用に開発されたロボットですから」
カノン「みんなを楽しませるって、どうやって?」
スカブラー「気の利いたべしゃりです」
カノン「べしゃり?」
スカブラー「トークともいいます」
カーマイン「気の利いたトーク? できるのこのロボットにそんなのが」
スカブラー「ええ、そりゃあもう・・・昨日ですね、その向こうの空中遊歩道を歩いておりましたらものすごく珍しい物を発見してですね・・・お、こりゃなんだと、思ったんですけど・・それ、なんだと思います」
ラハイロ「ミラエル・・・これ、コミテネから預かったマリント種だ」
ミラエル「うわ、これ、生まれたばかりじゃないの?」
ラハイロ「らしい・・・とにかくここに一刻も早く運んでくれと言われて」
ミラエル「弱っているみたい・・」
アシータ「集中飼育室に入れた方がいいんじゃないかな」
スカブラー「そうしましょう」
ラハイロ「(様子を見ているミラエルに)どうだ、わかるか?」
ミラエル「大丈夫だと思うけど・・(アシータ達に)行って。だいたい私の専門は発破であって、生物じゃないんだからね」
カーマイン「葉っぱってことは植物担当?」
ラハイロ「そっちの葉っぱじゃなくて、爆破の発破です」
カノン「爆破?」
アシータ「じゃ・・やってみます」
ミラエル「お願い」
アシータ「わっかりました! (スカブラーに)早く、マリント持って」
スカブラー「え? それ、俺がやるの?」
アシータ「あんたがやらないで他に誰がやるのよ」
スカブラー「(言うとおりにしながらも)あのさあ、ロボットの発達的に見るとですね、僕は君の後継機であって・・」
アシータ「早く、行くよ」
スカブラー「はいはい」と、アシータとスカブラー動物保護地域へ。
ミラエル「それで(そちらの方は)?」
カーマイン「地球から・・・来ました」
ミラエル「地球から?」
カノン「はい・・・・」
カーマイン「この惑星からの通信が途絶えて・・・それで様子を見てくるようにと」
ミラエル「様子を見る? 様子を見て、どうするの? この星はごらんの通りよ・・・大量の隕石の落下で、空中に砂が巻き上げられ、それが太陽光を遮断して・・・地表は氷河期さながら・・・」
カーマイン「はい・・・さっき・・地表の様子は」
ミラエル「見たのならさっさと地球に戻ったらどう? あなた達にできることはなにもないわよ・・・私達のおじいちゃんやおばあちゃんをこの星に勝手に送り込んでおいたくせに・・・私達は私達でこの状況をなんとかする・・・・あなた達地球の人間の手を借りるつもりはないわ・・・さあ、帰りなさい」
ラハイロ「この街の人間は皆、地球人のことをよくは思っていない・・・それは当たり前だろう・・・君達が我々になにをしてくれたというんだ?」と、そこへ帰ってくるアンカーとコミテネ。
コミテネ「ラハイロ!」
ラハイロ「コミテネ・・・どうやってあのブリザードの中から・・」
コミテネ「ヲミルアンカーが送ってくれたの・・」
アンカー「オーバードライブターボ・・・持っているのは自分だけだと思うなよ」
カノン「でも、どうして、地球と同じ物がこの星でも開発されているの?」
コミテネ「地球から定期的に新しい発明や、新製品の図面や情報が送られてくるの・・・本当なら、特許料が莫大にかかる物でも、この惑星で移民達が使用する場合は、それが免除されるのよ」
コミテネ「マリントは?」
ミラエル「今、集中飼育室へ」
コミテネ「とにかく気温の変化についていけないだけだから・・・早く、マリントに適した温度にしてあげないと」
アンカー「(カノン達に)見つかったか、教育型ロボットは?」
ミラエル「教育型ロボット?」
ラハイロ「彼らの使命はこの星の通信が途絶えたそのわけを調査することとは別にもう一つあるらしい」
ミラエル「それで・・・教育型ロボットを探してどうするの?」
ラハイロ「初代の教育型ロボットのメモリーを回収したいらしい」
ミラエル「教育型ロボットのメモリー? それも初代の? 初代っていったらそれこをおじいちゃんやおばあちゃんを育てたロボットじゃない・・・あの旧式の」
カノン「その旧式のロボットのメモリーに、この移民の歴史が刻まれているはずなんです」
ミラエル「歴史? 私達の歴史が知りたい? そんなもの知ってどうするのよ。私達は、あなた達のことをなにも知らないのに」
ラハイロ「ミラエルの言っていることはわかってもらえるかな。こんなところまで飛ばされてきて、ここで生きろと言われたおばあちゃんやおじいちゃんは大変だったって、ずっと聞かされてきたんだ。親代わりの教育型ロボットがあれこれ世話をやいてくれて、なんとかおじいちゃんとおばあちゃんは大人になることができたらしい。あの頃のこの星は・・・確かに地球から二十二光年も離れている場所を探しだしただけあって環境はとても良かった」
ミラエル「それでもそんなふうに私達を育ててくれた教育型ロボットも、答えられない質問が一つあった。増えすぎた人口を宇宙に移民させる。それはわかる。けれもど、その移民がなぜ私達でなければならなかったのか?」
カノン「地球はただ単に人口が増えすぎただけではありません。科学技術はどんどん発達していくのに・・・争いも差別もなくなりはしませんでした。このプロジェクトは表向きは、その『増えすぎた人口を宇宙に移民させる』ということですが、本当は、今までの地球人の文化や風習、そして、考え方をまったく新しくしてしまわない限り、人々から争いと差別はなくならないのではないか、そして、まったく新しくしてしまうには、地球上では不可能なのではないかという結論に達したのです。教育型ロボットのメモリーを探す目的はそれです。まったく新しい環境の中で人は・・・どのように生きたのか・・それを私達は地球に持って帰らねばならないんです。人は地球に生まれなかったら・・もしかしたら争いを好む生物ではなかったのかもしれない・・と」
カーマイン「カノン・・・あんたなんでそんなこと知ってるの?」
カノン「それは・・」
ミラエル「だとしても・・遅かったよ」
カーマイン「遅かった?」
ミラエル「(と、ラハイロに)だいたい初代の教育型ロボットはみんな隕石に・・・」と、その時、まるで『バックトゥザフューチャー』でタイムマシンが戻ってくるときのような音が聞こえる。
そして、若干、照明が変化したかと思うと、舞台後方に現れたどこでもドアから、タルテクが現れる。ミラエル「タルテク!」
タルテク「ここは・・・(と、ミラエルに気づき)ミラエル・・・ここは動物保護地区か?」
ミラエル「違う・・・動物保護地区は(と、指さし)向こうよ」
タルテク「向こう? 何メートルだ? 動物保護地区までは後何メートルある?」
ミラエル「三十メートルはあるわよ」
タルテク「三十メートル? そんなに?」
ミラエル「どうしたの? もしかしてまた・・・」
タルテク「瞬間物質輸送機のテストを・・」
ミラエル「だから・・・それはやめてって言ってるでしょう!」
ラハイロ「まだそんなことやっているのか?」
コミテネ「ミラエルの言うとおりよ。せっかくあなた達二人は箱船に乗る資格を得ることができたのに・・・今更なんでまた瞬間物質輸送機なんか作ってるの?」
タルテク「どうして、自分の研究室から同じ地下都市の中の動物保護ブロックまで移動するだけで、目的の地点から三十メートルもずれるんだ?」
カーマイン「瞬間物質輸送機も・・・・地球から設計図が送られてきているの?」
タルテク「完成すれば、この星の全住民と、今、コミテネ達が集めているこの星の動物を全てもう一つの惑星に運べるのに」
ラハイロ「恥ずかしい話だが今の我々にはこの星の住民全てを他の星に移住させるだけの科学力はない。外のブリザードさえなければもう少しましな宇宙船が建造できるのだが、物資もスペースもないこの地下都市の中で星間連絡船を作らなければならないのだ・・・しかも、一番大きな隕石が降ってくる前にだ。時間も限られている。そこで、この箱船と呼ばれている宇宙船乗船する人間を選別した。このタルテクとミラエルはもうすぐ結婚する。箱船に乗れるのは若くて才能のある男女にしようと、第一世代、第二世代のほとんどは乗船の権利を放棄した」
ミラエル「だから・・タルテク。私達はあの船に乗り新しい土地で生きていかねばならないのよ・・それなのに・・まだ・・そんな実験を自分でして・・」
カノン「ラハイロさんは・・・箱船には」
ラハイロ「乗らない・・結婚する相手がいなかったわけじゃない。その相手がこの星の生物のためにここに残ると言い張ったんだ」
コミテネ「ごめんなさい」
タルテク「やめましょう。まだ、なにもかもがおわったわけじゃないんだ」
ミラエル「まだやるきなの?」
タルテク「これが成功すれば、みんながこの星を脱出できる」
ミラエル「でも、だからってタルテク、あなたが自分で実験してみることないでしょう」
タルテク「自分で試してみないと人は怖がってこのドアをくぐってはくれないよ」
ミラエル「そのドアの向こうがどこに繋がっているかなんてわからないじゃない」
タルテク「ミラエル・・・・みんなで助かろう・・・自分達だけが助かるから、それでいいってもんじゃないんだ」
ミラエル「それでいいなんて言ってないでしょう・・・ただ、そんな実験を自分で繰り返していたら、もしかして、帰ってこれないところに・・・あなたが・・・行ってしまったら」
タルテク「おかしい・・・地球から送られてきた図面の通りに作っているのに・・・いったい、なにがちがうんだ? 地球でもこの瞬間物質輸送機は未完成品なのか・・・まだ実用にはほど遠いのか?」
カノン「それ、何年の図面?」
タルテク「え?」
カノン「その図面は、地球の暦で何年に設計された物なの?」
タルテク「そんなことは・・・・だって僕は地球の人間じゃないし・・」
カノン「タイムスタンプが押されているはずでしょう、かならず図面の左上のここんところに」
タルテク「ああ、あれか」
カノン「そう、それよ」
タルテク「たしか・・」
カノン「確か?」
タルテク「二千百八十五年だと・・・」
カノン「二千百八十五年?・・・・二千百八十五年だとまだシンクロナイザーがATSに更新されていない頃だ」
タルテク「ATSに更新?」
カノン「その君の作った装置は欠陥品よ、そんな何光年も離れた場所へ移民するために使っちゃダメ」
タルテク「なんで? あんたになにがわかるんだよ?」
カノン「わかるわよ」
タルテク「どうして・・」カノン、一瞬、あたりの様子を気にするが、
カノン「その図面をひいたのは私だからよ」
カーマイン「なに、それ」
カノン「自分で作り出した瞬間物質輸送機に自分で入って、どこに送られていくのかをためすのは、この銀河系の中で、あなた一人ってわけじゃないのよ」
カーマイン「え? それ、ほんと?」
タルテク「あなたが・・・あの瞬間物質輸送機を・・・」
カーマイン「あなた、瞬間物質輸送機の開発者で、なおかつ犯罪者なの?」
カノン「私は瞬間物質輸送機の開発者ではあるけど・・・・・・犯罪者ではないわ」
カーマイン「おぉっと、なにそれ!」
カノン「私は私が設計した瞬間物質輸送機のテストに参加したのよ。だって、自分が作ったマシンなのよ、一番最初に試してみたいじゃない(タルテクに)それはどこにあるの?案内して、私が完璧なマシンにしてあげる」曲 カットイン。
そして、カノンとタルテクとアシータでマシンを作っているシーン。
やがて完成する。
タルテクはまた自分でテストしようとする。
いつのまにかやってきているミラエル。ミラエル「やめて、タルテク」
タルテク「ミラエル!」
ミラエル「やめてって言ってるでしょう。そうやってまた自分でテストしてみる気でしょう」
タルテク「自分で作ったマシンなんだ、自分でやるしかないよ。そんなことを人にはまかせられない」
ミラエル「それで、三・六光年先まで飛ぶつもりなの?」
タルテク「そうだ」
ミラエル「冗談でしょう・・・だって、その前のテストで、たかだかこの地下都市の部屋から部屋に飛ぶのだって三十メートルのずれが出たんでしょう? 三・六光年先まで飛んだらいったどれだけずれるかわかったものじゃないじゃない」
タルテク「ずれは直した・・・この、地球から来たカノンさんと一緒に・・・だからもう大丈夫だ?」
ミラエル「絶対?」
タルテク「絶対だ」
ミラエル「なんの保証があって・・・なんの根拠があってそんなこと言ってるの?」
カノン「私は私の作ったこれと同じ装置で地球から二十二光年離れたこの星までやってきたわ」と、やってくるスカブラー。
スカブラー「アシータ・・館内放送で、おいらを呼んでるって話だけど・・・」
アシータ「呼んでる、呼んでる」
スカブラー「なんだ、おもしろい話でも聞かせて欲しいのか・・・しょうがないなあ・・・今朝、起きてみたら大変なことが起きていてな・・・なんだと思う?」
アシータ「いいから、ちょっと、こっちきな」と、アシータはスカブラーをそのどこでもドアの前まで連れていく。
スカブラー「な、な、なにするんだよアシータ」
アシータ「(タルテク達に)私はこの装置、信じます。そんなにミラエル様が心配なら私が飛んでみます」
ミラエル「アシータ」
スカブラー「瞬間物質輸送機で・・・おまえ、飛ぶのか?」
アシータ「そう、あんたと一緒にね」
スカブラー「あんたって、おいら?」
アシータ「他に誰がいるんだよ、さあ、こっちきて」
スカブラー「なんで、なんで、なんでぇ? 一人で行けばいいじゃん」
アシータ「私じゃ弱すぎてだめなんだよ」
スカブラー「弱すぎる?」
アシータ「さあ、早く」
スカブラー「さあ、早くってどこへ行くの?」
アシータ「決まってるでしょ!」
スカブラー「だからどこへ?」
アシータ「隕石の表面へ」と、アシータ、スカブラーの腕を掴んだまま、身を翻した。
暗転。
ゴー! という、本当なら真空で聞こえることがないが、アニメでは当たり前の宇宙音が激しく。
立っているのもやっとのよう、アシータとスカブラー。アシータ「(見回して)隕石の表面だ! どんぴしゃ・・あの装置、やっぱり完成しているんだ」
と、スカブラーがバランスを崩して飛んでいきそうになる。
スカブラー「アシータ・・・アシータ・・危ない・・危ないって、おいら」
アシータ、スカブラーの腕を掴んで地面に引き戻してやる。
アシータ「二十キロ四方の岩の固まりのに今私達は立ってるんだから、それ、忘れないでね」
スカブラー「アシータ、なんでよりによってこんなところへ? 同じ飛ぶならもっと楽しいところに飛ぶとかさあ」
アシータ「そうはいかないんだよ」
スカブラー「どうして?」と、アシータはある方向を示した。
アシータ「見な」
スカブラー、見た。
アシータ「あの灰色の星・・・あれが私達が住んでる星」
スカブラー「ああ・・・この岩の固まり、一直線に向かってるね」
アシータ「最初は三十キロ四方だったこの岩だけど、教育型ロボットが今の私達と同じように、この岩にたどり着いて、爆破作業した・・・結果、三十キロ四方の岩は二十キロ四方にまで割れたけれど・・でも、そこで力つきてしまった・・・」
スカブラー「まさか、アシータ、おまえもこの岩を爆破しようと・・」
アシータ「・・・・」
スカブラー「どうやって? 本気で爆破したかったらミラエル様に相談するとかさあ・・今まで地上都市のトンネル工事の時の発破はみんなあの方が・・だって、僕達はほら、急な話だったんで何にも持たずに来ちゃったよ・・・手ぶらできちゃったよ、こんなところまで・・・この二十キロ四方の岩を爆破するものなんてなにもないよ・・・」
アシータ「本当になにもない?」
スカブラー「へ?」
アシータ「ほんとうになにもない?」
スカブラー「いや・・・(すでに思い当たってはいるが)いや・・・全然、思い当たらないなあ」
アシータ「あんたの腹の中にある原子炉は?」
スカブラー「マジ? マジですかアシータさん」
アシータ「あんたの腹の中の小型原子炉の力はこんな岩くらいなら粉々にする力があるでしょう」
スカブラー「そりゃそうですけど」
アシータ「私達アシータタイプは原子炉がないのよ」
スカブラー「でも、それやっちゃうと僕も粉々になっちゃいますよ」
アシータ「まあ、しかたないな」
スカブラー「そんなあ」
アシータ「できることなら代わってあげたい」
スカブラー「そうしてくださいよ」
アシータ「でも、私のおなかの中には原子炉がない」
スカブラー「そんなあ」
アシータ「スカブラー」
スカブラー「なんですか」
アシータ「がんばれ」
スカブラー「がんばれ? ってなにをどうがんばるんですか。僕はがんばろうががんばるまいがこう(おなかから)どっかーんってなるだけでしょう」
アシータ「まあ、かいつまんでいうとそうなるけど」
スカブラー「なんで、なんで僕がそんなことをしなきゃなんないんですか」
アシータ「ロボット三原則だ」
スカブラー「ロボット三原則・・」
アシータ「知ってるな」
スカブラー「・・第一条」
アシータ「第一条」
スカブラー「ロボットは・・ロボット同士仲良くする」
アシータ「ちがーう! 全然ちがーう!」一方。
惑星の地下都市
アンカー達。コミテネ「教育型ロボット達は、その大型の隕石が落下すると知った時、私達に何の相談もなく、この惑星の衛星軌道上にまだ止まっていた、第一世代をこの星に運んできた母船に皆で集合し、隕石に向けて発進したのでした」
ラハイロ「あのロボットのファウンデーションパーソナリティ・・・つまり、人間でいうところのモラルというか最も基本となるのはどうやら、自分の身を投げ出して相手を救うという・・」と、駆け込んでくるカノン、タルテク、ミラエル。
カノン「ヲミル・アンカー。今、アシータ達が隕石の表面にいて」
アンカー「隕石の表面?」
カーマイン「なんで?」
ミラエル「それが・・勝手に・・」
タルテク「スカブラーには通信回線がついてるから、映像、入ります」と、その映像のスイッチを入れた。
ブウン!と、音がして彼らの後ろに現れる隕石の表面を走って逃げているスカブラー、 それを追うアシータ。スカブラー「やだよぉ! 自爆したくなんかないよぉ!」
アシータ「私にできたら私が自爆してるよ、あんたの原子炉じゃないと、この岩を吹き飛ばすことはできないんだよ」
スカブラー「なんでぇ」
アシータ「だからぁ、あんたのおなかの中に原子炉があるからだってば!」
タルテク「やつら隕石の端まで走りきる気か?」と、その時、スカブラーはなにかにつまづいた。
スカブラー「あっ!」
スカブラーがつまづいたのは、ドラ焼き型のブラックボックス。
スカブラー「こ、これは!」
アシータ「それ、教育型ロボットの・・」
スカブラー「メモリーじゃないかな」
カーマイン「なんですって!」
カノン「なんでそれが・・」
ラハイロ「同じだ・・やはり、教育型ロボットもその隕石の表面について・・自らの身を犠牲にして・・」
アシータ「だからこれが・・・教育型ロボットが・・ここでがんばった・・最後の・・」
スカブラー「え・・じゃあなに? 俺もこんなになっちゃうの?」
アンカー「ちょっと待ったぁ!」
カーマイン「あった! あんなところに! 教育型ロボットのメモリーが!」
アンカー「(カノンに)この星の瞬間物質輸送機は正確に起動するようになったんだな」
カノン「ばっちりよ」
アンカー「あのロボットの原子炉が爆弾になっちまう前に、隕石の表面へ行って、あのメモリーを回収するんだ」
ラハイロ「惑星の表面は真空だぞ」
タルテク「それなら大丈夫です」
アンカー「ほんとか?」
タルテク「対真空空間用に全身をビニールコーティングする『真空ちゃん』と約三分間の酸素を供給する『酸素くん』を作っておきました」
カノン「三分? 三分しかないの?」
アンカー「あのメモリーを回収してくるだけだ、三分もあれば大丈夫だろう。オーバードライブターボは空気があろうとなかろうと関係ない」
ミラエル「待ってください」
タルテク「どうした?」
ミラエル「本当に隕石の表面に行けるんですか」
タルテク「行けるよ。だって、現にアシータとスカブラーがあそこに・・」
ミラエル「もしも、もしもほんとうに行けるのだったら・・私も連れていってください」
タルテク「ミラエル!」
ミラエル「私・・あの隕石を爆破する自信、あります」
一同「ええっ!」
アンカー「その二十キロ四方の隕石を破壊する爆弾ってのは?」と、ミラエル、自分の耳を示し、
ミラエル「ここに」
アンカー「ここ?」
ミラエル「私のピアスが爆弾になってるんです」
アンカー「ピアスが爆弾?」
カーマイン「そんな小さい爆弾で二十キロ四方の隕石が爆破できるの?」
ミラエル「私、プロフェッショナルだからね」
アンカー「よし、ラハイロとカーマインはアシータとスカブラーの救出ならびに教育型ロボットのメモリーの回収、俺とミラエルは隕石へ爆弾をセットする。隕石の表面に滞在できる時間は三分、いいな」
出かける一同「はい」
カノン「瞬間物質輸送機のドア、開きます」
アンカー「じゃあ、ちょっくら行ってくるから」と、出かける一同。
カノンはカウントダウンを続けるために下手に残る(か、カウントを告げる度に出てきてもいい)一方、隕石の表面では。
スカブラー「・・・第二条」
アシータ「第二条」
スカブラー「第一条に反さない限り、ロボットは人間の命令をきかなければならない・・・」
アシータ「うん」
スカブラー「第三条」
アシータ「第三条」
スカブラー「第一条、第二条に反さない限り、ロボットは自分の身を守らなければならない」
アシータ「言えるじゃない」
スカブラー「そりゃ言えるけど・・・でも、ロボット三原則のどこにもロボットは隕石の表面で自爆しなければならないって書いてないよ」
アシータ「書いてはないよ」
スカブラー「じゃあさあ・・」
アシータ「隕石が降ってくる。これを爆破しなければみんな死んでしまう。誰かがやらなければならないことがある・・・それを一番うまくできるのがロボットなら、ロボットはそれをやるべきである」
スカブラー「なにそれ」
アシータ「ロボット三原則・・・・の四番目」
スカブラー「なんで? 三原則に四番目があるの?」
アシータ「私が作った」
スカブラー「いいよ作らなくて、そんなもん・・・そんなの作っても誰も従わないよ」
アシータ「この教育型ロボットは・・・そうやって・・・こんなメモリーだけになったのよ」
スカブラー「誰かがやらなければならないことがある・・・それを一番うまくできるのがロボットなら、ロボットはそれをやるべきである」
アシータ「そう・・・」
スカブラー「どうしてロボットはみんなそんなにお人好しなんだよ」
アシータ「スカブラー」
スカブラー「なんだよ」
アシータ「どうして私達が生まれてきたか考えたことある?」
スカブラー「・・・・・ない」
アシータ「誰かになにかをしてあげるためだと、私は思ってる・・・・」
スカブラー「自爆までして?」
アシータ「自爆しなければ救えない・・・・(と、指さし)あそこに住む人達をね」
スカブラー「ロボット三原則は・・・誰のためにあるの?」
アシータ「それは間違いなく人間のため・・・でも、ロボット三原則の四番目は間違いなく私達のために存在する。私達は人に作り出されて・・・やがて壊れて止まる。でも、私達は意味があって作りだされて・・・そして、なにかをなしとげて・・・なにか人のためになることをして・・・やがて止まる。それは壊れて止まるのかもしれないし、粉々になって止まるのかもしれない・・・」
スカブラー「アシータ」
アシータ「なに?」
スカブラー「悲しいね・・・人のためになにかをするって事は・・・・つらいね・・・生まれてきたことや死んでいくことに意味を見つけるってのは・・・でも、しょうがないね・・・君が言うように・・・この仕事を一番うまくできるのは・・・・僕なのかもしれないから」隕石の上、入り込んでくるラハイロとカーマイン。
ラハイロ「スカブラー! どこだ、スカブラー!」
カーマイン「アシータ!アシータ!どこなの?」
ラハイロ「スカブラー、スカブラー!」
カーマイン「姿が・・・見えない」
ラハイロ「やつら、どこまで走ったんだ?」
カーマイン「まだ先かもしれない」
ラハイロ「よし、加速するぞ、ついてこれるか?」
カーマイン「大丈夫!」ラハイロとカーマインははける。
同時に着いたアンカーとミラエルはすぐに爆弾のセットを終える。ミラエル「爆弾のセットはこれでオッケーよ」
アンカー「えらい簡単なんだな」
ミラエル「プロフェッショナルだからね」
カノン「残り、二分三十秒」
アンカー「爆破は?」
ミラエル「五分後に」
アンカー「よし・・・楽勝だな・・・」と、言ったときにずうんと地響きが・・・
アンカーとミラエルの体、揺れた。アンカー「なんだ?」
ミラエル「地震?」
アンカー「地震?バカな・・ここは二十キロ四方の宇宙空間に浮かぶ岩の上だぞ」
ミラエル「じゃあ・・・今の振動はなに?」
アンカー「しまった・・・スカブラーのやつ・・・自爆しちまったのか」と、再び、ズウーンと地響き。
ミラエル「まただ・・・」
アンカー「違う、これは爆破の振動じゃない・・・」
ミラエル「じゃあなに?」
アンカー「なにか・・・」
ミラエル「なにか?」
アンカー「生きている」
ミラエル「生きてる?」
アンカー「急げ・・・ラハイロ達と合流だ」アンカーとミラエル、走る形になって・・・はける。
一方、スカブラーとアシータ。
スカブラー「アシータ・・・僕は自爆する・・・君はもう地上に戻っていいよ」
アシータ「どうして?」
スカブラー「自爆ぐらい・・・自分一人でできるよ」
アシータ「ばか・・・スカブラー、おまえが自爆して粉々になって・・・それで私だけ生きていてもしょうがないじゃない」
スカブラー「どうして・・・僕が自爆するのは意味があるけど、君が僕の側にいて一緒に粉々になることに意味なんてないじゃないか」
アシータ「意味・・・あるわよ」
スカブラー「どうして?」
アシータ「スカブラー」
スカブラー「なんだよ」
アシータ「ロボットがロボットを好きになるって事、あると思うかい」
スカブラー「アシータ・・・・」
アシータ「そうだね・・・せっかくロボット三原則の四番目を作ったんだから、もう一つ増やしたって怒られないよね・・・ロボット三原則、第五条・・・ロボットは・・・好きなロボットと一緒に死んでもいい・・・」
スカブラー「アシータ・・・」
アシータ「さあ、スカブラー・・・戻ろう・・・岩の中心部を爆破しないと・・・(と、地面を示し)こいつ、粉々にならないからね・・・・さあ、早く!」と、走り出そうとするアシータ。
スカブラー「待って、アシータ・・」
アシータ「なによ、まだあんた・・・」
スカブラー「違う・・・・いいよ、僕は自爆でもなんでもするよ・・・それがロボットの使命なら・・・でも、アシータ・・・その場所までは・・・一緒に・・・・・走らないで歩いて行こう・・・・・」二人、歩き出す。
と、ズウーンという地響きの音。
二人、足下が不安定になり、崩れ落ちそうになる。スカブラー「うわ・・・わ・・・な、なんだ?」
アシータ「なに今の?」
スカブラー「なんか今、動いた・・・動いたよ・・・」
アシータ「違う!」
スカブラー「え? ちがうってなにがちがうの?」
アシータ「私達が今いる場所」
スカブラー「え? この場所がどうかしたの?」
アシータ「これは岩じゃない・・・なんか巨大な生物の・・・」と、スカブラー後ろに巨大ななにかを見つけた。
スカブラー「アシータ! アシータ!」
アシータ「なに・・」
スカブラー「あそこに・・・巨大な・・」
アシータ「なにあれ」
スカブラー「なんかでっかいミミズみたいなのが・・・」
アシータ「もしかしてこっちに向かってる?」
スカブラー「来る、来るよ・・・・ああっ! 口あけた・・・・でっかい宇宙ミミズが口開けたよ、アシータ!」と、その後ろの巨大ななにかの口がみるみる広がってアシータ達に迫ってくる。
スカブラー「うわ、巨大な口に・・・」
アシータはかろうじて避けた。
アシータ「危ない!」
スカブラー「巨大な口に食べられちゃう・・・」と、食べられちゃうスカブラー。
スカブラー「うわあああああああああああ」
アシータ「スカブラー!」
スカブラー「食べられちゃったあ」と、はけていく。
そして、やってくるラハイロとカーマイン。ラハイロ「アシータ!」
アシータ「ラハイロ様」
ラハイロ「なんだ、このでっかいミミズは」
アシータ「今、スカブラーが、食べられちゃったんです」
カノン「あと、一分三十秒・・・」と、カーマインはメモリーを拾った。
カーマイン「あった、これだ。これが教育型ロボットのメモリーだ・・・(と、カノンに向かって)カノン見える、ゲットしたよ、教育型ロボットのメモリー」
そしてやってくるヲミル・アンカーとミラエル。
ミラエル「アシータ・・・スカブラーは? まだ早まった真似してないでしょうね」
アシータ「ミラエル様も・・・」
ミラエル「もう大丈夫よ・・・この岩に私が爆弾を仕掛けたから・・・もうスカブラーを自爆させる必要はなくなったのよ」
アシータ「自爆させるもなにも・・・スカブラーが・・・」
ミラエル「どうしたの?」
アシータ「食べられちゃったんです・・・あのミミズのお化けに」
アンカー「あれが・・・地震の正体か・・」
ミラエル「どういうこと?」
アンカー「どうやら、この隕石はただの隕石じゃなかったようだな・・・こいつは巨大なカタツムリみたいなもんだ。今、俺達が立っているのは、その宇宙カタツムリの殻の上だ」
カノン「あと一分!」
カーマイン「おっとぉ!こうしちゃいられない、急いで戻ろう」
アシータ「私は残ります」
ミラエル「どうして?」
アシータ「ロボット三原則です。ロボット三原則の第五条です」
ミラエル「ロボット三原則の第五条って、数がメチャメチャ合ってないわよ、アシータ」
アシータ「第五条・・・ロボットは・・・好きなロボットと一緒に死んでもいい・・」
ミラエル「アシータ、あなた・・」
アシータ「さあ、みなさんは早くこの隕石から離れてください」
アンカー「君はどうする」
アシータ「私はスカブラーを助けに行きます」
ミラエル「助けにって・・・私が仕掛けた爆弾はあと二分ちょっとで爆発するのよ」
アシータ「だからって・・・あいつを残して帰るわけには行かないんです」
アンカー「よおし・・・アシータ、俺に掴まれ」
カーマイン「どうしたの?」
アンカー「ちょっくらスカブラーを助けに行ってくる」
カーマイン「嘘でしょ・・だって」
アンカー「こう見えても俺はハンカチ片手にメロドラマを見るのが大好きでね(と、アシータに)さあ、行こうか・・・」
カーマイン「だって、あともう・・・」
カノン「残り時間四十秒」
カーマイン「急がなきゃ・・」
アンカー「(ラハイロ達に)あんたらも早く帰えんな」
ラハイロ「でも・・・」
アンカー「三分しか持たないんだって言われたじゃないか」
ミラエル「でも、あなただって」
アンカー「俺は大丈夫だよ」
カーマイン「どうして」
アンカー「気の持ち方が違うからさ」と、アシータに、
アンカー「急げ・・・爆破の時間も近い」
と、形になり、走り出す。
×× ×× ××
走っているアシータを抱きかかえたアンカー。アンカー「(見上げて)でかいミミズだな・・・なに食ったらあんなになるんだ?」
アシータ「どうやって、助けるっていうんですか?」
アンカー「食べられちまったんだろう、やつに」
アシータ「そうです」
アンカー「じゃあ、どうすればいいと思う?」
アシータ「私達も食べられる?」
アンカー「そんなことやってる時間はない」
アシータ「じゃあどうやって」
アンカー「オーバードライブターボを最高速にして奴のどてっぱらに突っ込む」
アシータ「マジですか?」
アンカー「しっかりつかまれ」オーバードライブターボが最高速になる。
×× ×× ××
一方、ミミズの腹の中のスカブラー。スカブラー「うわ、うわ・・・どこもかしこもぬるぬるとした壁で・・・(と、その触っていた指を見る)あ、ああ・・まずい、まずいですよ、これは・・腐ってきた・・・いや、違う・・溶けてきた・・」
と、足の裏も見てみる。
スカブラー「ら? ららら? 足の裏も溶けてきた・・・俺はここで溶けてなくなるのかよ、おいおいおいおいって・・」
と、ドカン! と、音がして飛び込んでくるアンカーとアシータ。
アシータ「スカブラー」
スカブラー「アシータ」
アシータ「助けに来たよ」
スカブラー「よかった・・溶けちゃうところだったよ・・・でも、アシータ、自爆しろと言ったり、助けてくれたり・・」
アシータ「自爆しなくてもよくなったの」
スカブラー「え?」
アンカー「詳しい話はあとだ。脱出するぞ、掴まれ!」と、アンカーに掴まるアシータとスカブラー。
と、アンカー飛び込んできた方向を見る。
アンカー一度走り出す姿勢までとるが、アンカー「ない! どうしたんだ・・飛び込んできた穴がない・・」
アシータ「穴、ふさがってる・・」
スカブラー「どうしたんですか?」
アシータ「ないのよ穴が・・・入ってきた穴がないのよ」
スカブラー「じゃあ、もう一度、穴、あければいいじゃないですか」アンカー、辺りを見回して、
アンカー「加速するだけのスペースがない」
アシータ「じゃあ、どうすれば!」
アンカー「口まで昇って行って・・・そこから出るしかないだろう」と、向きを変えるアンカー、だが、足下がふらついた。
アシータ「ヲミル・アンカー! しっかりして!」
そして、また足の裏を気にして、
スカブラー「うわ、さらに溶けてきた・・・短い足が・・もっと短くなる」
アシータ「あんたなに言ってんのよ、生きるか死ぬかって時に」×× ×× ×× そして、地上側。カノン「ヲミル・アンカー・・・三分なんてとっくに過ぎてるのに・・」
ミラエル「まもなく爆発の時間よ・・十秒前」
アンカー「くそっ・・」
ミラエル「九」と、足の裏を気にしてうろうろしているスカブラーを引き寄せるアンカー。
アンカー「離れるな・・もうすぐこの隕石は爆発する」
ミラエル「八」
スカブラー「え? じゃあ、どうなるの?」
ミラエル「七」
アンカー「わからん・・」
ミラエル「六」
アンカー「だが、離れるな」
ミラエル「五」
アンカー「うまくすると、このまま・・」
ミラエル「四」
アシータ「このまま?」
ミラエル「三」
アンカー「この宇宙ミミズも殻の隕石と一緒にバラバラになって」
ミラエル「二」
アンカー「・・・外にでられるかもしれない」
ミラエル「一」
スカブラー「外に出て、それでどうなるの?」
ミラエル「ゼロ」
アンカー「そん時はそん時に考える」爆発音。
一度からだが沈むが・・・
三人はひとかたまりになって宇宙に飛び出した。スカブラー「うわあああ」 アンカー「外に飛び出したぞ!」 アシータ「でも、このままだと星にそのまま落下しちゃう!」 ×× ×× ×× カノン「(タルテクに)さっきスカブラーには通信機能があるって言ってたわね」 タルテク「ええ・・それでさっきの映像を・・」 カノン「今、飛ばされている三人の位置の座標って出せる?」 タルテク「出せると思います」 カノン「出して」 タルテク「どうするんですか」 カノン「瞬間物質輸送機の入り口を彼らのまえに作って、彼らをここへ送るのよ」 タルテク「できるんですか、そんなこと」 カノン「瞬間物質輸送機のドアはどこでも設定できるの」 タルテク「宇宙空間の・・・ピンポイントでも?」 カノン「そうよ、誰が設計したと思ってるのよ!」 カーマイン「どこでもドアが設置できるんだ」 カノン「早く!どこでもドアの設定位置を」 タルテク「今、やってます!」 ×× ×× ×× アンカー「アシータ」 アシータ「はい」 アンカー「スカブラー」 スカブラー「はい」 アンカー「どこに落ちようか・・・」 アシータ「え?」 スカブラー「どこに・・・って」 アンカー「いろいろあるだろう・・・・山とか海とか・・・」 スカブラー「ああ・・・でも、どこに落ちても、ブリザードが吹き荒れる氷の世界だからな」 アシータ「そんなことないよ」 スカブラー「え?」 アシータ「もう、ブリザードに悩まされることなんかない・・・だって、たった今、その元凶の隕石を爆破したんだから」 スカブラー「あ、そうか・・そうだよね・・・すぐにまた元に戻るよね、前みたいに・・・戻るよね」 アシータ「そうよ、きっと。明日晴れたら・・・海は青いし、空なんかもっと青い・・・明日晴れたら・・・お前らみんなが地下都市なんかじゃなくって、地上に出てきて、その青い空の下で、笑って暮らせる・・・」 タルテク「座標、ロックしました」 カノン「確認して・・・失敗は許されないわよ」 タルテク「大丈夫です」 カノン「スタンバイ!」 アシータ「きっと、明日晴れたら・・・・昨日までのブリザードが嘘だったみたいに・・・・明日晴れたら・・・みんながその青い空の下で、笑って暮らせる」 アンカー「お前達がやったことは無駄じゃないんだからよ・・・・」 スカブラー「僕達がこうして死んでいくのも・・・無駄じゃないんだね」 アシータ「そう、だって・・・明日晴れたら・・・」 アンカー「明日晴れたら」 アシータ「まもなく大気圏に突入するよお・・・」 アンカー「諦めるな」 アシータ「明日晴れたら・・・」 カノン・カーマイン・ラハイロ・タルテク・コミテネ・ミラエル「どこでもドアの扉を開いて!」 曲、カットイン。 ゆっくりとアシータ、スカブラー、そしてアンカーがドアから転がり出てくる。 そして、回りの人々もゆっくりと彼らに歩み寄り、それぞれに抱き起こす。 ゆっくりと暗転。 おしまい。 <初演データ> 劇団アニメックス 旗揚げ準備公演パート2 1999年8月25日〜29日 銀座小劇場 ●キャスト ヲミル・アンカー ・・・・・・ 塚本拓弥 メイズ・カノン ・・・・・・・・・ 渡辺浩子 フラン・カーマイン ・・・・ 今平有紀 アシータ・55J ・・・・・・ こいけあや スカブラー・58B1 ・・・ 谷代克明 ラハイロ・ゼロッセ ・・・・ 石川靖明 ルナ・コミテネ ・・・・・・・・・ 矢吹歩雅 キャリナ・ミラエル ・・・・ 服部典子 ギャムレィ・タルテク ・・・ 渡辺健太郎 ●スタッフ 音響/前田規寛 作曲/近藤秀将 照明/塩見祐布 宣伝美術/日南田淳子 制作/ウメハラルミ ●製作/じんのひろあきの秘密基地