男女の2人芝居、上演時間は50分くらい。


男、電話に出ている。

男「はい・・・はい・・・大変だな、それは

・・・まだ撮影やってるんですか・・で

も、あと6カットっていったら(と、時計

を見て)もう今日中には終わらないね・・

それで、大丈夫なの? 明日、9時、支度

済集合なんて・・いや、カンちゃんのスケ

ジュ−ルに文句はないけどさあ・・はい、

じゃ、明日・・頑張って・・」

と、受話器を置く男。そのまま自宅に電

話する。

男「あ、俺だけど・・何かあった? そう、

電話は? あ、あれか・・あれね、あれは

もういいんだ、すんだから・・さやか

は? もう寝たのか? うん、明日の朝一

で、出番・・(笑って)共演の女の子って

いったって、全然若い子だから、なに変な

心配してんだよ・・下だらない事言ってな

いで、もう寝ろよ・・ま、若い子は好きだ

けどな・・」

と、ドアのベルが鳴る。

男「あ、ちょっと、人が来たよ・・また電話

する・・なに言ってんだよ、女が訪ねてく

るようなモテる奴だったら、俺はこんな映

画なんかには出てないよ・・」

もう一度ベルが鳴る。

男「じゃ、お休み」

と、受話器を置いてドアへ。

男「どちら様ですか?」

女「夜分すみません・・」

男、ドアを開ける。

男「あれ?」

女が立っている。手には台本を持ってい

る。

女「こんばんわ」

男「どうしたの?」

女「(中へ)ちょっと、いいですか?」

男、どうぞ、と中に入れる。

男「撮影は?」

女「まだ、やってるみたいですよ」

男「だってね、また徹夜かな・・この組、徹

夜好きだよね」

女「私のぶんはもう終わったんで」

男「そう・・・・明日の予定、聞いた?」

女「ええ・・」

男「朝、九時開始でベッドシ−ンっていうの

もきついよね」

女「そうですね」

男「早起きして、朝食とって、コ−ヒ−飲ん

で、メイクして、服を脱ぐんだよ・・(自

分ではおかしいと思ってうけた)これが仕

事なんだからな・・おかしいよな」

女「どうしますか?」

男「なにを?」

女「ベッドシ−ン・・・」

男「ああ・・・どうするって?」

女「なにか、考えました?」

男「いや、特には・・明日の朝、現場入っ

て、雰囲気で決めるつもりでいたけど・・

・ほら、こういうのって、その方がいいじ

ゃない・・あれこれ、自分で演技のプラン

なんか立ててさ・・変に緊張したりするよ

りは・・」

女「私、すごい緊張しちゃって・・・」

男「初めて? カラミ」

女「ええ・・」

男「じゃ、緊張するなって言う方が無理かな

・・」

女「ええ・・・それに、あの監督、なにも言

わないじゃないですか、最初は」

男「あ、言わないよね、自分の意見・・で

も、いるんだよ、結構、そういう監督って

・・・まず、役者に好きなようにやらせて

みて、それで、自分の意見っていうか、考

えを修正して、ヨ−イスタ−トって人ね・

・多いよ・・なんか、飲む?」

女「いえ・・」

男「遠慮しないで・・・俺がおごるわけじゃ

ないから・・」

女「じゃ、ミネラルウオ−タ−を」

男「健康的だね・・僕はビ−ルだけど、いい

かな・・」

女「好きに動いてみろって言われても・・

私、どうしていいか・・でも、絶対言いま

すよね、明日も『じゃ、好きに動いてみよ

うか』って」

男「言うだろうね・・」

女「どうしますか?」

男「仕事の話が続くのかい?」

女「その相談に・・」

男「なんだ」

女「なんだって?」

男「夜遅く、女優さんが一人で部屋に訪ねて

くるってのは・・期待もするでしょ、こっ

ちとしては・・」

女「ごめんなさい」

男「いや、いいんだよ・・じゃ、僕もミネラ

ルウオ−ターにするか」

と、水をコップに注いで、持って行って

やる。

女「あ、どうも」

男「さ・・どうしようか? まずは台本通り

にさ・・」

女「(暗唱するように)男の欲望に火がつい

た。二人、倒れ込む。もつれ、からみあ

い、女、はじらいながらも、男の愛撫に身

体を開いていく。そして、女もまた、男に

優しく、やがて、受け入れ、激しく抱き合

い、女、イッた」

男「覚えたんだ」

女「何度も読みましたから・・」

男、それでも台本を開き。

女「八十八ペ−ジです」

男、そのペ−ジを開く。

男「あ、本当だ。(読み上げる)男の欲望に

火がついた。二人、倒れ込む。もつれ、か

らみあい、女、はじらいながらも、男の愛

撫に身体を開いていく。そして、女もま

た、男に優しく、やがて、受け入れ、激し

く抱き合い、女、イッた」

女「具体的なことは書いてないんですね」

男「演技の段取り?」

女「なんか、抽象的なことばっかり『男の欲

望に火がついた』とか、『はじらいながら

も、男の愛撫に身体を開いていく』とか」

男「そりゃあれだよ、台本で事細かく指定さ

れていて、その通り動いても、おもしろく

はならないもの・・それは台本を書いた一

人の人間の頭の中の想像を超えないんだか

ら・・映画っていうのはね、みんなで寄っ

てたかって作るものなんだから、こうい

う、曖昧で、抽象的な表現の方が、いろん

な人達の、いろんな発想が入り込む余地が

あって、むしろいいんだと思うよ」

女「それを考えるのが、私達の仕事ですから

ね・・」

男「その通り・・キスはするよね」

女「はい?」

男「いや、だから、(台本を示し)こういう

場合さ、まず、キスはするよね」

女「・・するんじゃないかな」

男「一つ一つ決めていこう・・最初っからデ

ィ−プキスにする?」

女「最初っからディ−プキスでないとした

ら、どういうのがあるんですか?」

男「たとえば、唇がこうあるでしょ・・何度

かこう触れ合って、がばっと・・・」

女「ああ・・そうか、そうか」

男「あるでしょ」

女「よくやってますよね」

男「やってるでしょ」

女「TVとかで・・」

男「いや、TVとかじゃなくって、自分でや

ってる時にさ・・」

女「自分でやってる時?」

男「やるでしょ? ディ−プキスくらい」

女「ええ・・」

男「その時はどう?」

女「それが、よく覚えてないんですよ・・」

男「なんで?」

女「別に、照れてるとか、そういうんじゃな

いんですよ・・でも・・そういう時って、

キスしている瞬間の印象は鮮明なんですけ

ど、その前とか、そのすぐ後とか、なにを

どういうまで、どんな動作をしているのか

って、思い出せないんです・・ほら、人間

って、楽しい思い出だとかの瞬間は覚えて

いるんですけど、逆にその直前とかは」

男「そんな事は別にいいんだよ・・これは君

の私生活の再現をするわけじゃないんだか

ら・・ただ、参考のために君が今まで体験

した事を、思い出しなさいといっているだ

けなんだよ・・問題はこの役で演じようと

する人間が、どういった振舞いをするのか

を考えて行けばいいんだよ・・そうだろ

う」

女「ええ・・そうなんですけど・・だったら

・・」

男「だったら、どうなると思う?」

女「いきなりですね」

男「いきなり、なに?」

女「いきなりディ−プキスですね・・それ

も、長く」

男「うん、いいね、こう背中に回した手なん

かも、こんなふうに(まさぐるように)な

ったりするんですね」

女「いや、違うんです」

男「違うって・・・」

女「背中に手は回さないでしょう、激しくキ

スする時は」

男「え? じゃあ、手はどうするの?」

と、男は両手を挙げて、そのまま、デ

ィ−プキスをしているかのように動き。

男「まさか、こんなふうにはならないだろ」

女、立ち上がって、男の方へ行き。

女「こうです」

と、男の頭を両手ではさみ込むようにし

て持ち、自分から少し唇を寄せて。

女、手を離すと、男、女がやったのと同

じように、女の頭をはさんでみる。

女「最初にこうやって、私の頭を引き寄せて

キスするの」

男「うん・・それで・・」

女「すぐに私もこうします」

と、女、同じように男の頭を両手ではさ

んで、唇を近づける。

男「なるほどね・・」

しばし、本当にキスするんじゃないかと

いうように二人は黙っているが、男が突

然。

男「これは、こう動かしてもいいかな」

と、女の頭をグリグリ回してみる。

女「じゃ、私も・・・」

と、同じようにグリグリ回してみる。

男、女の体にそのまま体重を預けて行く

ようにして、やがて二人は、ドサっとソ

ファに倒れ込む。

しばし、再び見つめ合う二人。

そのまま本当にセックスしてしまうんじ

ゃないかといった感じである。

だが・・・

男「いいね・・・」

女「(うなずく)・・・」

この『いいね』は、『このままセックス

してもいいね』といったニュアンスで言

って下さい。当然、女の方も、このまま

『いいよ』というニュアンスで答えま

す。

男「・・今の、すごい自然に倒れたよね」

女「いいですよね」

男「いいよね」

女「倒れ込みはこれで行きましょうか」

男「で、これからどうするかだな・・」

女「ちょっと、その前に」

男「なに?」

女「ディ−プキスっていうと、舌をからめる

んですよね、やっぱり」

男「まあ、ディ−プキスだからねえ」

女「舌っていうのは、どうやって動かします

?」

男「そんな事まで決めるのか?」

女「いえ、別に決めなくってもいいんですけ

ど・・いきなり変な事されても・・」

男「だって、ただ、舌と舌をからめるのに、

変な事なんて、しようがないだろ」

女「ですよね・・じゃ、こんな感じです

か?」

と、手でやって見せる。(ただし、これ

は普通こんなふうにはやらないような動

きにして下さい)

男「いや、こんな感じだと思うよ」

と、男、女がやっているのと違う動かし

方をする。

女「あ、そういう人なんだ」

男「なんだよ『そういう人』って」

女「よかった、聞いといて・・・」

男「え? ちょっと待って(と、また手を動

かしてみて)これって、そんなに変?」

女「変じゃないですけど、今まであんまりそ

ういうのは、私なかったから」

男「そうなの?」

女「でも、大丈夫ですよ、わかってれば、び

っくりはしませんから・・・」

男「いや、君のやりやすい方でいいよ、僕が

合わせるから・・」

女「どっちが自然に見えるかの問題ですよ」

男「まあ(女がやったやつをやり)これより

も、(自分がやったやつをやり)これだろ

うな・・」

女「経験の多い人の意見を採用しますよ」

と、そのまま、またソファに倒れ込ん

で。

女「ここから、どうしますか?」

男も、さっきの姿勢に戻って。

男「普通に考えて、胸だな」

女「ですよね」

男「(右手で)こっちを触って、こっちで脱

がせるよ」

女「私も少し、身体を浮かせて、協力的にな

っても不自然じゃないですよね」

男「全然、不自然じゃない」

女「(あなたの)身体の向きは、これでいい

んですか?」

男「(左手が)こっちだから、少し、服の上

から、触るよ・・」

と、女、男の右手が胸に触った瞬間、小

さな声で。

女「あっ!」

と、言って、体がびくん! となる。

男、手を離し。

男「なに?」

女「あ・・・大丈夫です・・私、胸ってちょ

っと・・」

男「え?」

女「ちょっと、駄目なんです・・」

男「・・・感じやすいんだ」

女「すみません・・・」

男「そんな謝られても・・」

女「そんなつもりなはいんですけど、体っ

て、反応しちゃうじゃないですか・・」

男「あ・・ああ・・そうだね」

女「ごめんなさい」

男「でも、そんなんで、明日の撮影、大丈夫

なのか?」

女「撮影は、大丈夫ですよ・・だって、触ら

れて、少し感じちゃったとしても、それは

それで、スクリ−ンに写って、いいもので

しょ。だって、嫌いな人に触られるシュチ

ュエ−ションじゃないんだし・・・」

男「まあ、それはそうなんだけど」

女「続けて下さい」

男「(気をとり直して)あ・・ああ・・」

女「それで、上は脱いだとして、ブラしてる

んですけど・・」

男「上は全部脱がさない方がいいんじゃない

かな・・」

女「はだける感じで?」

男「そう・・それでブラだな」

女「前と後ろ、どっちではずすやつがいいで

すか? 一応、両方用意してもらってはい

るんですよ」

男「ブラもね(胸の)ここではずさないで、

肩ひもをはずして、下にずり降ろすよ。そ

れで、(腹のあたり)ここではずすように

するから・・」

女「あ、そうなんですか」

男「その方が(胸の)この辺で、モゾモゾす

るよりも、見た目いいし、一発ではずれな

い事も、考えに入れとかないとね・ブラが

・・」

女「そうか・・・」

男「だから、前ではずす奴でも、後ろではず

す奴でも、どっちでも、君の好きな方でい

いよ・」

女「いつも、そうやってるんですか?」

男「え?」

女「あ、いえ、いいんです、すみません」

男「そういうやり方も、知ってるって事だよ

・・ただね・・」

女「それで、その時なんですけど・・私がブ

ラとかはずされてる時」

男「ああ・・」

女「私、唇にキスした後、首筋とかにキスす

るの好きなんですけど、してもいいですか

?」

男「・・・もちろん」

女「結構、いっぱいしないと、気がすまない

んですけど、いいですか?」

男「いいけど・・キスしても、吸っちゃだめ

だよ」

女「どうして?」

男「キスマ−ク残しちゃ、もう一回って言わ

れた時(首筋の)この辺に、いっぱい赤い

ポツポツがあったら、ね、困るだろう」

女「そうですね」

男「でも、大丈夫だよ・・本気でしなきゃい

いんだから、回数とか、時間とかはね、ブ

ラはずす間、たっぷりやっててもらって構

わないよ・・キスしているように、お客さ

んに見えればいいんだから・・別に僕達だ

って、この脚本の中の人物のように、愛し

合っているわけでもないし、求め合ってい

るわけでもないだろう・・でも、明日の朝

にはベッドシ−ンをやるわけだからさ・・

全部、うそなんだよ・・でも、うそに見え

なきゃいいって事だよ」

女「本当にそうなんですか?」

男「そうだよ・・そう見えればいいんだよ・

・別に心の中で、どんな事考えていよう

が、見てる人が、そう見てくれればいいだ

けだ・・そう見えるようにやればいいだけ

の事なんだよ・・それが役者の仕事なんだ

からね・・」

女「でも、私なんか、そんな演技力とかない

から、本気でやらないと、お客さんに見抜

かれちゃうんじゃないかって思うんですけ

ど・・」

男「大丈夫、そのために、今こうやって、あ

れこれ考えているわけだし、ぼくらとお客

の間には、映画のキャメラってもんがある

んだよ・・」

女「私、そのへんの兼ね合いとかがわかんな

いんですけど、そういうものなんです

か?」

男「うん、それは心配しなくってもいいんだ

から、大丈夫だよ」

と、男、台本に戻って。

男「それで、ここまでは来たと・・・(台本

を読んで)ええっと、男の欲望に火がつい

て、倒れ込んだよね、もつれ、絡み合い、

女、はじらいながらも、男の愛撫に体を開

いていく・・・か」

女「倒れ込んで、もつれ、絡み合うのは、ブ

ラのところと、私のキスでいいですよね」

男「結構いっぱいしないと、気がすまないキ

スね」

女「(少し笑って)そうです」

男、一度無対象でブラをはずして、キス

を受ける感じをやってみる。

男「こうで・・こうで、こうだな・・・」

女「男の愛撫に体を開いて行くって事は、最

初は少し拒み系の感じなんでしょうかね」

男「だろうね・・」

女、少し胸をガ−ドする感じで。

女「こういう態勢かな」

男「それで、少しうつむいて・・僕の顔をあ

んまり見ないで」

女、そうしてみる。

女「これで、一回、目が合って、少し間が合

って、目をそらしてみると、ちょっと、や

り過ぎでしょうかね」

男「どれ、どんな感じ?」

女「ここで、見つめ合って・・それから、横

にこんな感じで・・」

男「あ、いいんじゃないかな」

女「OKですか?」

男「OK、OK・・最後に目をそらしたら、

目をつぶってみて」

女「(やる)こう?」

男「そうすると、すごい恥ずかしそうな感じ

には見えるよ」

女「でも、さっき脱がされる時は、協力的に

なって、体を浮かせたりしているのに、今

さら、こうガ−ドしても・・って、感じは

しませんか?」

男「全然そんな事はないよ、それとこれとは

別問題なんだから・・」

女「ならいいんですけど・・」

男「どんなに気を許したとしても、はずかし

がるのは、基本でしょう・・あっけらかん

としちゃったら、劇的じゃなくなるから

ね、その瞬間にもう・・」

女「じゃ、少し過剰に反応して見せるくらい

でもいいですね」

男「過剰の反応って?」

女「だから、少し過剰にはずかしがるってい

うか・・」

男「あ、あれ?」

と、男、台本をめくり出す。

女「どうしたんですか?」

男「これ、明かりは、いつ消したんだっ

け?」

女「明かり?」

男「この部屋の明かりはどうなってるんだっ

た?」

女「最初っから消えてますよ」

男「そうだよな・・そうだよな」

女「明かりがついてるのと、そうじゃないの

って、やっぱり違うんですか?」

男「・・少しだけどね・・」

女「え? どのへんが?」

男「いや、女の方は変わらないけど」

女「男の方が?」

男「なぜ、明るいところでやるのかって・・

いうのがね・・デリカシ−がない奴なの

か、それとも、そういう好みなのか・・」

女「そうか・・・だんだん細かくなってきま

すね」

男「僕がほら、見た目も若くないんだし、衝

動だけで、明るいか暗いかも気にしない

で、女の子を押し倒して、やるっていう設

定にもできないでしょ・・そのへん、いろ

いろとね・・」

女「私は、この拒み系の(腕)これはいつや

めていいんですか? 『男の愛撫に体を開

いて行く』っていう、この体を開いて行く

ってのは・・」

男「まだ愛撫してないから、もうちょっと、

そのままでいて」

女「はずかしがっていていいんですか?」

男「いいよ、それで、僕は下にとりかかるか

ら」

女「スカ−ト?」

男「スカ−ト」

女「どうしましょうか・・全部、脱がせま

す?」

男「脱がせないで、どうするの?」

女「だって、上がはだけたまんまなのに、下

だけ丁寧に脱がすって・・」

男「変じゃないでしょ」

女「あ、あるか、そういう場合も・・」

男「あるでしょ・・」

女「ありますね・・あるある」

男「上を着てて、下を脱ぐ方がそそるでし

ょ」

女「なるほど・・それはそうかもしれません

ね」

男、スカ−トを脱がせようと動いてみ

る。

女「この時も、腰を上げて、協力的になって

いいんですよね」

男「いいよ」

女「そうすると、下が・・・見えちゃいます

ね」

男「パンティ?」

女「ええ・・・」

男「そうだね・・」

女「この時は、隠したりはしない方がいいん

ですか? 結構、本気で恥ずかしいと思う

んですけど・・」

男「でも、両手は胸を隠してるでしょ」

女「ええ・・・」

男「手であんまりこう・・・」

と、男、幾つか下半身を隠す動作をして

みるが。

男「下を隠すのって、みっともないからなあ

・・」

女「ですよね・・・じゃ、こうしましょう、

横向いて、足を少し曲げて(やってみる)こ

んな感じになると、はずかしがってるよう

に見えますよね」

男「うん・・・いいね、そうしたら、僕が後

ろからパンティを脱がしやすいな」

女「あ・・どうぞ・・」

と、男、女の後ろに回り込んで、パンテ

ィを脱がせる動作をしようとする。

女「キスして・・・」

男「え?」

女「キスして下さい・・この時」

男「じゃ・・(と、頭を移動して)こんな感

じになるの?」

女「そう・・・なんか、さっきっから、脱が

すのばっかりに気持ちが集中してるみたい

なんで、少しキスとか間に入れた方がいい

んじゃないかなって思うんですけど」

男「脱がすのに集中っていってもね、いろい

ろ喋りながら段取り決めてるから、長く感

じるだけで、割と一瞬だよ・・続けてやっ

てみると」

女「そうかな」

男「そうだよ・・でも、ここでキスっていう

のも捨てがたいな・・・いっつもそうなん

だけど、パンティを面と向かって脱がせる

のって、好きじゃないんだよな・・」

女「いつもって?」

男「いや、普段・・」

女「面と向かって脱がされるのって・・あん

まりないのは、そのせいなんでしょかね・

・普段・・」

男「やっぱりない? (やって見せる)こう

やって脱がされるのって・・」

女「ないですね・・」

男「やっぱりないか・・」

女「だいたい、私、あんまり脱がされるのっ

てないからな・・」

男「そうなんだ・・」

女「自分で脱いじゃうから・・」

男「なるほどね・・」

女「脱がされるのって、なんか、変な言い方

だけど、甘えてるって感じがして、生理的

に嫌なんですよ・・」

男「じゃ、ここでも、自分で脱ぐようにして

みる?」

女「それは、ちょっと・・・キャラクタ−が

違ってきちゃうじゃないですか・・」

男「ま、そうか」

女「キスしながら、手元を見ないで脱がせら

れますか?」

男「協力してくれるなら・・・よし、じゃ

あ、頭は並べて、手だけで(脱がす動作)

こんなふうで」

女「私も顔はこっち向きで、少し浮かせて協

力・・と」

男「大丈夫だね・・」

女「そこまで脱がされちゃうと、私はやっぱ

り、こう動きますけど・・」

と、女、胎児のように背を丸めて、体育

座りのまま横になったようになる。

男「う〜〜ん」

女「だめ?」

男「だめじゃないけど」

女「次の行動に移りにくい?」

男「なんかちがうなあ・・」

女「こう動きませんかね・・下全部脱がされ

ちゃったら・・・」

男「いや、そのかっこはすごく好きなんだけ

ど、ここに至るまでがなんていうか、当た

り前なんだな・・ありきたりで」

女「普通って言えば、普通ですよね・・」

男「『男の欲望に火がついた』っていう感じ

じゃないんだよな」

女「欲望に火がついちゃうんですもんね」

男「もっと乱暴になってみようか」

女「乱暴ですか?」

男「そう・・・」

女「乱暴にされちゃうんですか、私」

男「の、方がやっぱり、そういう感じは出る

んじゃないかな」

女「どのへんが乱暴な感じになるんでしょう

か?」

男「例えば、脱がせるのも、お互いが協力し

合っての、共同作業っていうんじゃなくっ

てさ」

女「男のリ−ドが足りないんでしょうね」

男「そう、乱暴なくらいのリ−ドね」

女「ブラとか、引きちぎっちゃったりするん

でしょうね、やっぱ」

男「あ、そうなんだろうね」

女「いいですよ、それくらいは・・・でも」

男「なに?」

女「あんまり、なんていうかいわゆる乱暴に

はならないですよね」

男「乱暴っていっても、暴力的になるって事

じゃないからね」

女「ええ、意味はわかるんですけど・・」

男「ただ、レイプに見えると、ちがってとら

えられちゃったりするからなあ」

女「もっと、女の体を激しく求めるって事で

しょう?」

男「そう、求める衝動が激しいんじゃないか

ってことなんだけど」

女「最初に激しいディ−プキスで始まるって

いうのはいいですよね」

男「うん、そこはいいよ」

女「それで、倒れ込んで・・胸?」

男「じゃないよな」

女「ちがいますね」

男「倒れ込んでもまだ」

女「ディ−プキスは続いてる」

男「はずだよな」

女「そのままディ−プキスしながら、胸に手

が来るんじゃないかな」

男「それで、こうやって、下から手を突っ込

んで行って」

女「ブラを探しあてて」

男「押し上げて、胸にキスしに行くって、感

じかな」

女「あれ、引きちぎらないんですか?」

男「体、弱いから、そんな力ないもん」

女「本当ですか?」

男「うん・・・極力、暴力的にはならない方

がいいだろう」

女「じゃ、いいですよ、それで。下着をはず

すとか脱がすとかに、気を使わないって事

ですね」

男「そういう事、それで、今、頭はここに来

ているわけだから、君の手は今、何をして

る?」

女「え? 手ですか?」

男「そう、君の手は今、何をしてる?」

女「さっきのキスのところで(グリグリをま

たやって見せて)これやって、倒れて、ま

だずっと頭を持っていていいですか?」

男「いいよ」

女「それでそのまま、頭が下がって行きます

よね。ブラ押し上げて・・・(考えて)ず

っと、頭に手を当ててていいですか?」

男「そりゃいいけど」

女「なんでかっていうとですね、胸とかにキ

スされたりすると、やっぱ感じるわけだか

ら、ほらそこで、感じてるっていうのを見

せなきゃなんないじゃないですか」

男「うん」

女「その時に、更に『もっと、もっと』って

感じで、自分の手で持った男の人の頭を、

こう胸に自分で押し付けるっていうのはど

うかなって思うんです」

男「いいね・・それは・・その次に・・最初

に左の胸に行って、次に右の胸に行くって

いうのでいいかな」

女「ええ・・・それはいいんですけど、さっ

きのは、両方ともやった方がいいんでしょ

うかね」

男「押しつけるの?」

女「ちょっと、しつこいかな」

男「(考えて)う〜ん頭の持ち方を変えてみ

たら?」

女「あ、そうか、もっとこう、頭を抱き締め

るみたいにして、押しつけてみます」

男「それで、それをやっている間に、スカ−

トを脱がして、パンティ降ろしちゃうか」

女「今度はえらくスピ−ディですね」

男「脱ぐ時にちょっと協力してもらわなきゃ

なんない事があるんだけど、いいかな」

女「なんでしょうか? 私にできる事であれ

ば」

男「僕がこうやって、膝のところまで君のパ

ンティを降ろすから、どっちか片方の足を

・・・そうだな、じゃ、左足にしよう、左

足を少し上げて(上げてというのは垂直に

上げるのではなく、膝を抱えるように上げ

るのです)片方だけ、足を抜いて欲しいん

だけど・・・できる?」

女「ええ、大丈夫です」

男「それで、片方だけ抜いたままにしてお

く」

女「それで?」

男「そのままにしといて、あとで動き始めた

時に、ずっとここを(パンティが)ずり落

ちて行って、足首で止まったままになって

るっていうのがいいんじゃないかって思っ

たんだけどね」

女「それって、なんか」

男「なに?」

女「やらしいですね」

男「だろ?」

女「なんでそんな事思いついちゃうんですか

?」

男「え・・いや、まあ・・経験かな・・」

女「でも、これだとあっという間に、来ちゃ

いますね、ここまで」

男「それで、僕はずっと頭を下げて行くから

ね」

女「はい」

男「それで、太腿の下から上にさすって行く

感じで、手のひらを上げて行くから、太腿

の内側の、一番上まで来たら・・」

女「そんな遠回しな表現しなくってもいいで

すよ」

男「え?」

女「太腿の内側の上なんて・・」

男「遠回しっていったって・・この太腿の一

番上には前張りがあるだけなんだからさ。

前張りに触るから、それがきっかけで・・

・っていうと、なんだか、雰囲気が壊れる

かなって思ってさ・・・」

女「あの」

男「え?」

女「前張りなんですけど・・」

男「・・・まさか、しないとかいうじゃない

だろうね」

女、うなづく。

男「本当に?」

女「ええ」

男「なんで?」

女「いや、邪魔かなって思って」

男「いいの? それで」

女「私は別に・・・」

男「そうなんだ・・」

女「した方がいいですか?」

男「それはまあ・・ぼくはいいとしても、ス

タッフが、嫌がる人がいるからね・・前張

りしないって」

女「そうなんですか?」

男「実際、現場で目のやり場に困るじゃな

い、ああいうのって、つい見ちゃうもんだ

し・・でも、じっと見るのもなんだかねえ

・・」

女「じゃ、した方がいいんですか?」

男「だね、スタッフのために」

女「でも、やりにくくありませんか、前張り

に向かって、演技するなんて」

男「いや、そんな事はないよ・・前張りして

ても、してなくても、演技は同じようにで

きなきゃ・・実際に人を殺さないと、人を

殺すシ−ンはできませんって言ってるよう

なものだからね・・そんなの」

女「じゃ、明日は・・・あの、すみません前

張りって、誰に相談すればいいんでしょう

か?」

男「前張りはね、メ−クさんのお仕事」

女「前張りって、前張りっていうそういうも

のがあるんですか?」

男「いや、メイクさんが作ってくれるものな

んだよ・・前張りっていっても、個人差が

あるものだからね・・」

女「そうなんですか」

男「前張りはした方がいいよ・・してても、

そんなふうに見えないようにやんなきゃ・

・・」

女「ええ、そうですね」

男「それで、僕の手が、太腿の内側の上まで

上がって行って、少し動かすから、そした

ら、ゆっくりと足を開いて行って・・」

女「はい」

男「それで、僕が頭をそこに持って行く」

女「前張りのところへ」

男「太腿の内側の上へ」

男「じゃあ、俺がここに手を触れたら『うっ

!』て、のけぞってみてくれる」

女、やってみる。

そして、息を呑んだら、しばらく止め

て、大きく悩ましげに吐き出す。

男「いいね、その息」

女「そ、そうですか」

男「多少、大きめに何度かあえいでみて」

女「あえぐって?」

男「息を荒くしてみて」

女、やってみる。

男「吸って、吐いて、吸って、吐いて、段々

と間隔を短く、荒くしてみて」

女、ソファに寝転んだまま、しばらくそ

れを続けてみる。

男、それを黙ってみている。

男「そう・・・いいんじゃないかな」

女、やめる。

女「こんな感じですよね」

男「これはちょっと来るな」

女「本当ですか」

男「ああ・・人間の生理に直接訴えるからね

・・寝ている人にね、ウオ−クマンを掛け

て、マラソンしている時の心臓の音を聞か

せるとね、体は寝ているのに、鼓動だけが

どんどん早くなっていくってことがあるん

だよ」

女「へえ・・・」

男「さっきの話じゃないけど、精神的なもの

とは別に、体って、ほら、外的な刺激に反

応しちゃうもんだからね」

女、また呼吸を始める。

しばらく聞いている男。

男「そう、それで、時々、息を詰まらせてみ

て」

女、そうする。

セックスしている時のあえぎ声に近くな

る。女、それを唐突にやめ。

女「この息の音を聞いてると・・・少しは興

奮してきますか?」

男「うん・・いいよ、なかなか・・ちょっ

と、もう一回段取りを整理してみようか・

・少し休憩して」

女「え・・ええ・・そうですね」

二人、妙に離れて座る。

男「なんだか、こんな事、二人でぶつぶつ言

いながらやってるのって、この事情知らな

い人が見たらさ・・なにやってるかって思

うよね」

女「でも、明日の朝、スタッフが大勢見てい

る前で、何度も裸になって抱き合う事を考

えれば・・・こんな事は、まだ」

男「まだ不安?」

女「そりゃそうですよ」

男「どうして出る気になったの、この映画」

女「マネ−ジャ−が、奪い取ってきた仕事な

んですよ・・私のために」

男「へえ、競争率、高かったんだ」

女「それでホン渡されて」

男「読んで(見て)」

女「ええ・・・」

男「おもしろかった?」

女「いや、あんまり・・わかりやすいホンで

したけどね・・・ああ、裸が売りなんだな

って」

男「しょうがないよね、最近、誰かが脱がな

いと、映画を作る金が集まらないからね」

女「みたいですね」

男「なんて、俺なんかが今の映画のそういう

現状を嘆いてもさ・・レンタルビデオ屋に

行ったら、やっぱり、そういうパッケ−ジ

のビデオをまず手に取るからね・・」

女「そうなんですか?」

男「そういうもんだよ・・・レンタルビデオ

屋の新作の棚の前に、五分でも立ってれ

ば、わかるよ・・まずみんなそういうもの

を手に取るよ。あとはタ−ミネ−タ−2と

か、クリフハンガ−とかだろ・・・」

女「ああ・・・それはわかりますけど・・」

男「でもねえ、考え方を変えれば、それだけ

みんなに見てもらえる可能性が高いって事

だよ・・だとしたら、ぼくらにとっては、

そんなに悪いメディアじゃないからね」

女「この仕事、取るのって、結構大変だった

みたいですよ・・・うちのマネ−ジャ−、

いくら脱ぎがあるって言っても、私ぐらい

の知名度じゃ、主役っていうのは、なかな

か・・らしいんです」

男「そんなものかな・・」

女「この映画が封切りになる頃に、私の写真

集が出るんですよ」

男「海外とか、行った?」

女「メキシコとブラジルへ」

男「いい仕事じゃない(か)・・女の子の特

権だよね」

女「この映画って、その写真集とお互いが、

キャンペ−ンになるように持っていくんで

す・・だから、どういう写真集かわかるで

しょう?」

男「あ、そういうことか・・・」

女「そういうことなんです」

男「それも気には、してる?」

女「ええ・・・かなり・・」

男「でも、今、そういうのって、そんなに珍

しいものじゃなくなってきたからね・・」

女「事務所の人にも言われました・・私が気

にせず、世間が気にしてくれるといいんだ

けどねって・・・」

男「ああいう写真集が出る時の心理って、わ

かんないけど、やっぱ、恥ずかしいとかあ

るの?」

女「そりゃありますよ」

男「でも、女優としては、見られたいわけで

しょ、いろんな人に」

女「それもあるんですよね」

男「その矛盾って、自分の中で、どうやって

解決してるの?」

女「はずかしいっていえば、恥ずかしいんで

すけど、なんて言うのかな・・恥ずかしい

っていうのは、私にとっては、悪い意味じ

ゃないんですよ」

男「うん・・わかる、わかる・・」

女「変ですかね・・私の言ってる事って」

男「ううん・・すごく女優さんっぽい意見だ

よ・・」

女「男の人って、やっぱり、段取りって、こ

んな感じでやろうとか、決めてから始める

ところってあるんですか?」

男「なんの?」

女「(今まで寝ていたソファのあたりを示し

て)こういう事」

男「ああ・・セックスの段取り? どうだろ

うね・・決めて始めても、その通り行くか

どうかってのはね・・」

女「でも、どこかで考えてはいるんでしょ、

ここを触って、これをこうして、今度はこ

こって・・」

男「ああ、まあね、あれは、やりながらね、

女の子の反応を見ながらだよ、やっぱり・

・・」

女「前戯をやめるきっかけって、なにで決め

るんですか?」

男「前戯をやめるきっかけ? 」

女「きっかけっていうのも変ですけど、次に

移る時・・男の人って、なにで決断するん

ですか?」

男「決断っていうほど大げさなものじゃない

けど・・そうね・・女の方が『もうして』

って言ったらかな・・」

女「言わなかったら?」

男「やっぱり、そうねえ・・濡れ具合かな・

・」

女「そうなんだ」

男「ねえ・・段々、俺達って言葉に対する感

覚が麻痺してきてない? なんか俺、すご

い事口走ってるような気がするなあ『濡れ

具合』とかさあ・・」

女「私も、今『そうなんだ』って、素直に聞

いちゃいましたよ」

男「ねえ・・・」

女「ですね・・」

男「あ、待てよ・・」

女「え?」

男「最初っから、結構濡れてる場合もあるか

らな・・話し、続けてもいいの?」

女「ええ・・・そういう場合は、どうするん

ですか?」

男「考えてもみなかったな・・そのタイミン

グって、どうやって計ってたんだろ・・・

あれだよ、やっぱり、自分が我慢できなく

なった時だね・・不思議なもんだな・・そ

ういわれてみると、やっぱり、動物的な反

応の連続だな・・セックスって」

女「誰かに教わるものでもないですからね・

・」

男「今はいいよな・・三百八十円で、AV見

れば、リアルなのが見られるからね・・・

僕なんかが若い頃は、そういうのがなかっ

たらからね・・実践あるのみ、だったよ」

女「モテましたか、昔」

男「あんまり(もてない)だったね。TVに

出てるからって、モテるとは限らないよ、

学校行って、ロケ行って、セット行ってだ

けだったらからね・・だって、俺、最初は

同じ高校のクラスの子の家で・・だったも

ん・・十七で・・十七だよ、十七、遅いだ

ろう?」

女「私も、聞いていいですか?」

男「え? なにを?」

女「どうして、この映画に出ようって思われ

たんですか?」

男「そろそろ、仕事でもしようかなって思っ

てた時に来た話だったからね・・ほら、ぼ

くらみたいな役者は、いっぱい出ると飽き

られるし、出ないと忘れ去られちゃうから

さ・・」

女「仕事、選んで?」

男「選ぶっていうか、働かなきゃなんなくな

ったら、働くって、それだけだよ・・それ

に台本読んだら、若い子とのカラミもある

みたいだし・・でも僕が話をもらった時に

は、まだ主演の女の子が決まってなかった

からさ・・・」

女「さっき、気持ちはいらないって、おっし

ゃってましたよね」

男「え?」

女「さっき、ほら、演技する時に、気持ちは

いらないって・・」

男「あ、ああ・・・」

女「気持ちがあると、邪魔ですか?」

男「別に邪魔ってわけじゃないんだけどね、

そういう気持ちを自分で作って、それで演

技してると思い込んでる奴が多いからね・

・例えばね、悲しい場面で、役者が悲しい

って事を表現するのに、心の中で悲しい気

持ちを作っても、それを見ている人は、な

んか思いつめた顔してるようにしか見えな

いしね・・よくいるんだよ、気持ち、気持

ちって・・そんな気持ちなんか作ったって

さ、それはその役者の個人的にな感情に基

づいた気持ちであって、役の上のキャラク

タ−の気持ちとは微妙にずれてる事に気が

ついてないしね・・だから、ぼくはそれが

嫌で、そういうふうに極端な事を言ってる

だけなんだけどね・・」

女「それは、わかります」

男「だから、邪魔だからいらないってわけじ

ゃないんだけどね」

女「私、本当の事を言うと、台本いただい

て、お話は脱ぎがメインの話で、あんまり

おもしろいとは思わなかったんですけど、

キャストの所を見たら、相手役の名前が出

てて・・」

男「ああ・・・僕の?」

女「(うなづいて)それで、すごくそれまで

迷ってたんですけど・・・決めたんです・

・出ようって」

男「え? どういう事?」

女「だから、せっかくのベッドシ−ンだか

ら、好きな人がいいなって・・それで、決

心したんです」

男「そ、そうなの?」

女「ええ・・・」

男「僕が決め手になったの?」

女「(うなづく)・・・・」

男「ああ・・・そうなんだ・・・じゃあ、大

役じゃないか・・・じゃあって、こともな

いか・・」

女「昔から、見てました、TVとか」

男「ああ・・・そうなんだ」

女「ええ・・」

男「会ってみて、どうだった?」

女「実物の方がよかったですよ・・全然」

男「そう・・嬉しいな、僕も・・」

女「似てるんですよ」

男「誰と?」

女「私が昔すごく好きで・・私の最初の人に

・・」

男「あ・・・そうなんだ」

と、男、女の後ろから抱き込むようにか

ぶさる。(どういう位置に二人がいるの

かわからないので、なんとも言えません

が、この行為に至るまでに、台詞、もし

くはアクションが追加で必要かもしれま

せん、応相談)

そして、ゆっくりと押し倒そうとする。

女「続き・・・・ですか?」

男「(やめない)・・・」

女「ちょっと・・・ちょっと待って下さい・

・」

男、止まる。

女「あの・・・私、そういう意味じゃないん

です」

男「じゃあ、どういう意味なの?」

女「私、なんか・・なんていうか、誘ってい

るように見えました?」

男「見えるよ」

女「続きをやりましょう・・それからでも・

・」

男「それからって?」

女「いや、だから、それからでもいいじゃな

いですか・・」

男「そういう事なの?」

女「(うなづいた)・・・・」

男、納得はしていないが、まあ、そうい

われて、体を離した。

男「お預けかな・・」

女「すみません・・早く、こっち済ませない

と、不安で・・・」

男「(あきらめがついたらしく)やろうか・

・・」

と、男、また台本に戻って。

男「(また読み上げ始める)男の欲望に火が

ついた。二人、倒れ込む、もつれ、絡みあ

い、女、はじらいながらも、男の愛撫に体

を開いていく。そして、女もまた、男に優

しく、やがて、受け入れ、激しく抱き合

い、女、イッた・・・たったこんだけのト

書きに、悩まされるねえ・・」

女「考え過ぎなんですしょうかね・・私達・

・」

男「そんな事はないよ・・・でも、最後の

『女、イッた』まで、いつになったら、た

どり着けるのかな・・・」

女「『女、イッた・・・』か」

男「『女、イッた』・・・イッた事って、あ

るの?」

女「プライベ−トでですか?」

男「そう」

女「あれがそうなのかなっていうのなら、あ

るんですけど・・」

男「どんな感じだった? 覚えてないかな」

女「でも、私が勝手にそう思ってるだけかも

しれませんから・・」

男「どんな感じだった?」

女「(考えながら)どんな感じって言われて

も・・・」

男「うん・・・」

女「すごく、気持ちいいとしか・・・」

男「・・・そりゃそうだ・・・」

女「すみません、なんかボキャブラリ−少な

くって・・・」

男「口で説明するのは、難しいよ、確かに・

・・」

女「いつも、イカせてるんですか?」

男「え?」

女「いつも、女の人と寝ると、女の人イカせ

るんですか?」

男「いや・・・それはね・・・時と場合によ

るな・・」

女「女の人が、イッてる時って、男の人っ

て、わかるものなんですか?」

男「うん・・・まあ・・・そりゃあねえ」

女「それって、本当にイッてるんですか、そ

の時」

男「どういう事?」

女「え? いや、だから、そのイッてるって

いうのは、演技じゃなくって・・かな・・

って」

男「じゃないとは思うけど・・・そこを疑い

始めたら、セックスってさ、なんとも味気

ないものだからね」

女「そうですけどね・・」

男「演技でイッた振りする事って、多い

の?」

女「私の友達とかは、結構あるって・・それ

はなんて言うか、だますためにそういうふ

りをしてるんじゃなくって、そういうふう

にふるまってるうちに、気持ちが高まって

きて、イク時もあるっていうか・・」

男「なるほどね・・形から入るわけね・・」

女「不思議と、気持ちの方が、後からついて

くるから・・・」

男「やっぱりそういう事ってあるよな」

女「やっぱりって?」

男「いや、女とやってる時にね、そうじゃな

いかなって、思う時があるんだよ」

女「それはバレてるって事ですか?」

男「演技が?」

女「ええ・・」

男「感じてる振りをしてるってわけでもない

んだよね・・感じようとしてるっていうか

・・」

女「そうそう」

男「それでイケなかった時に、それは演技で

しかなかったというわけだね・・」

女「そうですね・・」

男「・・・見てみたいね・・」

女「え?」

男「君の、その、いこうとする演技ってのを

・・」

女「それは、明日、本番の時に、たっぷり見

れるわけじゃないですか?」

男「・・・・・・」

女「そんなには待てないって、顔してます

よ」

男「待てないって言ったら、どうする?」

女「・・・・・」

男「なんで、そんなにさっきっから、思わせ

振りな事ばっかり言うんだい?」

女「そんなつもりは・・・」

男「お前、俺を誘っているのか? でなき

ゃ、からかっているのか?」

女「そんな・・」

男「誘っているのか? そうじゃないの

か?」

女「そう見えますか?」

男「見えるよ」

女「誘っているように見えるんですか、私」

男「見えるよ・・そうとしか考えられないよ

・・」

女「そういうふうに見えればいいんですよ

ね、演技って・・」

男「どういう意味だよ」

女「私の事、どう思います?」

男「どおって・・・」

女「抱きたくなりました?」

男「・・・抱きたいよ、そりゃ」

女「欲望に、火はつきました?」

男「え?」

女「欲望に、火はつきました? 私、わから

なかったんですよ、どうやったら、欲望に

火がつくのかって・・」

男「・・・今までのは、演技だったのか?」

女「どういうふうに見えてました?」

男「演技には見えなかった・・だけど、うそ

だったんだな」

女「どれが?」

男「俺の事が、昔から好きだったとか・・い

や、この部屋に来た事から・・まず・・」

女「この部屋に来たのはうそじゃないですよ

・・・だって、私は今、この部屋にいるじ

ゃないですか・・」

男「そのト書きの『欲望に火がついた』のた

めのうそだったんのか」

女「どう見えました?」

間。

男「どうでもいいな、そんな事は・・」

女「でしょう? だって『欲望に火がつく』

ってのは、そういう事じゃないんですから

ね・・きっと・・・」

男「ああ・・関係ないね」

と、抱き締めようとした時に、女が部屋

の明かりのスイッチを消した。

(と、ここでそのスイッチのあるところ

に移動していてほしいんですが、大丈夫

でしょうか?)

ドン! と、二人が倒れる音。

静寂がしばし・・・・

やがて、耳を澄ますと、聞こえてくる女

の吐息。

以下、暗転の中で、ほとんど吐息のみの

進行となります。

アダルトビデオの音声の部分だけを聞い

てるようなものです。アダルトビデオの

音声は、現場で女の子が出している声に

加えて、更に強調するために、他のあえ

ぎ声や、吐息が被せてありその技術とい

うか、技法はなかなかのものです。

その辺のものを参考にしてみて下さい。

ただ『はあ、はあ』言ってるだけになら

ないように、さまざまなテクを駆使して

飽きずに、しかも、興奮するような良い

吐息のシ−ンにして下さい。

非常に表記しにくいのですが、たとえ

ば、まあ、こんな感じです。

女「はあ・・はあ・・はあ、はあ・・・

(と、息を詰まらせ)くっ! あ、はあ・

・・はあ・・はあ・・はあ、はあ・・ふ−

っ・・はあ、あ、はあ・・・はあ、はあ・

・はあ、はあ・・ああっ!・・はあはあは

あはあ・・はあ・・はあ、はあ、はあ・・

・・はあ・・はあ・・はあ・・・はあ・・

・・はあ、はあ・・・くっ・・くくっ・・

あ、はあ、はあ、はあ・・・はあ、ああ・

・あああ・・・はあはあはあはあはあはあ

・・・うっ! はあ・・・はあ・・・はあ

・・・・はあ・・はあ・・はあ、はあ、は

あ、はあ・・・」

男「感じる?」

女、それには答えず、少し、大きめの声

で。

女「ああっ!」

男「それは・・演技の方?」

女、答えず、吐息が続いて。

やがて激しめの音楽。

−おしまい−