第128話  『嘆きの喫煙者2』
  舞台の片隅で換気扇が回っている。
  やってくる中山、続いて登場してくる宇佐美。
中山「俺、産まれた時、未熟児だったじゃん」
宇佐美「知りませんよ」
中山「でさ、保育器にしばらく入ってて、あの箱の中、酸素が濃いから、日焼
けしてるみたいになってさあ…面会に来る親戚がみんなサーファーみたいだ
な、って」
宇佐美「未熟児のサーファー」
中山「そうそう」
宇佐美「見当つかない、未熟児のサーファー」
中山「ファンキーだよね(と、自嘲する)ふふふふ」
宇佐美「その時から、今の顔色だったんですか?」
中山「…そんなこと言われたの初めてだよ」
宇佐美「顔色悪いっすよ」
中山「(と、上を見上げて)照明のせいだろ」
  その側で男が二人、煙草を取り出した。
中山「宇佐ぴょん、禁煙、しないの?」
宇佐美「え? なんでですか?」
中山「いや、なんで吸ってんのかなって」
宇佐美「やめないって決めましたから。禁煙しないって」
中山「だから、その理由は?」
宇佐美「理由?」
中山「本当の理由」
宇佐美「間を持たせるためかな。間を持たせるため」
中山「間が持たないの?」
宇佐美「なんとなく」
中山「間が持たないか」
宇佐美「なんかこう、空白の時間…耐えられないってことないですか?」
中山「じゃあ、今も、俺とこうしている間、間が持たなくて吸ってるって感
じ」
宇佐美「まあ、そうですけど」
中山「俺といると間が持たないか」
宇佐美「誰もそんなこと言ってないじゃないですか」
中山「話すことも別にないしな」
宇佐美「そんなことないですよ」
中山「じゃあ、なんか話せよ」
宇佐美「なんの話ですか?」
中山「そんなことは知らないよ」
宇佐美「中山さんは禁煙しないんですか?」
中山「やめる理由がないもん」
宇佐美「健康によくないとか、あるじゃないですか」
中山「害されていると思ってない」
宇佐美「気持ちの問題ですか」
中山「気持ちだよ、気持ち、気持ちが一番大事だろう」
宇佐美「いつから吸ってんですか?」
中山「十七」
宇佐美「一緒です」
中山「高校二年生」
宇佐美「あ、俺は高三でしたね」
中山「その時はまだかわいかったから。ひと箱あったら一週間くらい持ってた
から」
宇佐美「あの頃は、こんな年になるまで片時も手放さなくなるとは思わなかっ
たんですけどね」
中山「あのサーファーがね」
宇佐美「禁煙かあ」
中山「すっごいかわいいコが、さ」
宇佐美「ええ」
中山「宇佐ぴょんに、煙草やめてって言い寄ってきたらやめる?」
宇佐美「そのすっごいかわいいコ見てから決めます」
中山「すっごいかわいいんだよ」
宇佐美「連れてきて下さいよ」
中山「ものすごいかわいい子が、煙草やめてぇ」
宇佐美「中山さん、やっぱ顔色悪いですよ」
中山「吸い過ぎかな」
宇佐美「元の色、知りませんからね」
中山「だから、サーファーだったんだって。写真残ってんだよ、酸素で焼けて
真っ黒なさ、小さな俺」
宇佐美「(箱を見て)あ、あと二本しかねえ」
中山「残り二本」
宇佐美「まだ二本あると考えるのか」
中山「すぐにあとひと箱、買いに走るのか?」
宇佐美「ちょっと、買ってきます」
中山「ああ…そっちか」
  と、宇佐美、立ち去る。
  中山、自分の煙草の箱を見て。
中山「ふふふふふ…俺、まだ三本あるもんね」
ゆっくりと暗転していく。