第56話  『同窓会』





  中嶌の住んでいる公園の近く。
  (中嶌はお花見で立ち退きを要求されて、その後、公園に住んでいます)
  スーツ姿の龍之介と中嶌がふらふらとやってくる。
  ベンチが一つ。
中嶌「大丈夫? 龍ちゃん」
龍之介「うん、ちょっと酔っぱらっちゃった・・すごいね、二十年ぶりに会ったわりには、みんなすぐにほら・・休み時間が戻ってきた感じになっちゃって」
中嶌「不思議だよね・・すごく休み時間ぽかったよね・・話の盛り上がりとか」
龍之介「ほんとにみんなくっだらないこと憶えてんだよね・・はあ・・まだ風、冷たいね」
中嶌「大丈夫?」
龍之介「大丈夫、大丈夫・・けど、でも、なんつーか、まだ飲み足りないって感じ」
中嶌「飲む?」
  と、ポケットから日本酒の小瓶と缶ビールなどを出す。
龍之介「どうしたの?」
  と、日本酒を示し。
中嶌「こっちはさっきの二次会の会場から・・」
龍之介「もらってきたの?」
中嶌「そう・・だってもったいないじゃない」
龍之介「ああ、そう・・」
中嶌「いっとく?」
龍之介「もらっとくわ」
中嶌「はい・・」
  と、渡す。
龍之介「中嶌は今、どこに住んでるの?」
中嶌「うん・・・この近所を、転々と・・」
龍之介「え? ほんとに?」
中嶌「そう・・近所だね」
龍之介「あ、そうなんだ」
中嶌「だからほら、駅の近所で飲むと逆に遠くなっちゃうから・・」
龍之介「あ、そう・・そうだったんだ。え、じゃあ、中嶌んちで飲もうよ」
中嶌「いや、うちはね・・」
龍之介「なに?」
中嶌「狭いし・・」
龍之介「あ、そう・・なんで、天下のソニーの社員が・・あ、わかった貯め込んでるな」
中嶌「いやいや・・」
  と、二人、ずるずるとベンチに座り込む。
龍之介「じゃあ、二人きりになっちゃったけど、宮里第二中学三年一組の同窓会の・・」
中嶌「三次会」
龍之介「三次会の開催をここに宣言いたします。乾杯」
中嶌「乾杯」
  二人、とりあえず、ビールを流し込む。
龍之介「いや、同じ中学の同じ教室で勉強しても、みんな全然違う道を歩むもんなんだよね」
中嶌「びっくりしたよ・・成島とさ・・成島昭彦と話した?」
龍之介「話した・・っていうか向こうから話かけてきた」
中嶌「ああ・・」
龍之介「あのさあ・・成島が言ってるのってさあ」
中嶌「うん」
龍之介「ネズミ講だよね」
中嶌「じゃないかな」
龍之介「友達紹介したら、投資した額がさ」
中嶌「倍になるんだって」
龍之介「いい話だよな・・ホントだったら」
中嶌「ホントだったらね」
龍之介「ネズミ講ってさ、あれなんでしょ」
中嶌「なに?」
龍之介「友達紹介して、倍になるじゃない」
中嶌「うん」
龍之介「あれ、倍になって倍になってって、やっていくと二十六回目で日本の総人口を越えちゃうんだってね」
中嶌「そうなんだ」
龍之介「そうそう・・」
中嶌「そのために幹事に立候補したらしいよ」
龍之介「そうなんだ」
中嶌「まあ、動機は不純でもねえ・・同窓会の幹事やるのって大変だからねえ」
龍之介「まあねえ・・おかげでみんなと二十年ぶりに会えたんだからねえ」
中嶌「竹内美紀子!」
龍之介「竹内!」
中嶌「美紀子」
龍之介・中嶌「きれいだよね」
龍之介「変わってないよね」
中嶌「聞いた? バツイチなんだって」
龍之介「聞いた、聞いた」
中嶌「チャンスだよね」
龍之介「でも、アムウエィなんでしょ」
中嶌「そうそう」
龍之介「引いた、引いた」
中嶌「すごい成績いいんだって、アムウエィで」
龍之介「そうだろうなあ。きれいだもんね」
中嶌「ハワイに行ったんだって、成績が優秀だから、そのご褒美に」
龍之介「へえ、がんばってるんだ」
中嶌「アムウエィでね」
龍之介「がんばってるんだ」
中嶌「でも、龍ちゃんあれだよね」
龍之介「なに?」
中嶌「そんなに老けてないよね」
龍之介「そうかな」
中嶌「そうだよ、他の連中と比べてさあ」
龍之介「ああ・・でも、中嶌もさあ、そんなでもないんじゃない?」
中嶌「なんかみんなハゲるか、太るか、その両方かって感じだったねえ」
龍之介「まあねえ、仕事がねえ、給料は安いけど、休みたい時に休めるし、潰れる心配はないし・・ストレスないからねえ」
中嶌「ああ、そうかあ、リストラとかないんだもんね」
龍之介「ないねえ・・でも、それでもやっぱというかその安心感からかさ・・肉とかついてきたよ」
中嶌「そうなの?」
龍之介「そうそう・・」
中嶌「俺もあんまりストレスないんだよな」
龍之介「へえ、いいことじゃない」
中嶌「まあ・・ねえ・・」
龍之介「あのさあ、今日のあの、卒業文集を朗読して、誰が書いたのか当てるってのはさ・・」
中嶌「ああ、あれね」
龍之介「あれは誰が考えたの?」
中嶌「悪趣味だよね」
龍之介「卒業文集に書いた作文なんてさあ、もう時効だよね、二十年も経ってるんだから、責任ないよね、書いたことに関して」
中嶌「ないない」
龍之介「科学者とか、弁護士とか、野球選手とかね・・」
中嶌「誰もそんなもんにはならなかったねえ」
龍之介「まあ、中学校の卒業文集に中小企業の社長とか、税理士とか書かないじゃない。将来の夢、役所に勤めて定時で帰るなんてさ」
中嶌「ははは・・そだね」
龍之介「卒業アルバム持ってきてる奴、結構いたから驚いちゃった」
中嶌「なんか、不安だったんだってみんな、名前と顔が一致しないかもしれないって」
龍之介「でも、幹事としてさあ、成島がんばったよね、先生のビデオレターまで用意して」
中嶌「ネズミ講の力だね」
龍之介「給食の時の曲まで用意して」
中嶌「あれ、俺が用意したんだよ・・」
龍之介「そうなの?」
中嶌「そうそう・・成島に言われて用意したんだよ・・」
龍之介「あのラジカセも?」
中嶌「俺のだよ・・」
  と、中嶌、自分の鞄から小型のラジカセを取りだす。
中嶌「ほら」
龍之介「あ、ほんとだ・・じゃあ、あのチャイムも?」
中嶌「そう、俺が学校に行って録ってきたの・・」
  と、中嶌、ラジカセのプレイボタンを押す。
  チャイムが流れ出す。
龍之介「ああ・・これこれ」
中嶌「でも、みんな、なんかしんみり聞いてくれたんで、苦労したかいがあったってもんだよ」
龍之介「何回も聞いたもんね・・これ」
中嶌「何十回・・じゃ、きかないよね」
龍之介「そうそう・・これ聞いて、ああ、授業の終わりだって、ほっとしたり」
中嶌「休み時間が終わってまた、授業が始まるってうんざりしたり・・」
龍之介「ただのチャイムなのに、みんななんか妙にね、沈んじゃったよね」
中嶌「いろんな事、思い出したんじゃないの」
龍之介「だよね・・本山がさ、ビール継いでくれてさあ」
中嶌「ああ・・」
龍之介「あいつ、現場監督やってるんだろう・・」
中嶌「ああ、らしいね・・」
龍之介「日に焼けててさ・・黒くてさ・・俺、自分の手が白いってこと・・今日、初めて気がついたもん・・」
中嶌「本山、なんかいい顔になってたね」
龍之介「毎日外で働いてるんだよね・・やっぱりあれかな」
中嶌「なに?」
龍之介「お日様の下で働く方がいいのかな、人は・・」
中嶌「どうだろ・・」
龍之介「日に当たってる? 最近」
中嶌「ま、まあねえ・・」
龍之介「ああ、そう・・」
中嶌「お日様は大事かもね」
龍之介「結構さあ・・」
中嶌「うん」
龍之介「多くてびっくりしなかった? 住所不定の奴って」
中嶌「・・ああ」
龍之介「四十人中さあ、十名ってどういうこと? クラスの四分の一が行方がわからんってことでしょう?」
中嶌「でも、ほら、住所はねえ、今はそんなに重要じゃないじゃない。携帯持ってれば、連絡はつくしさあ」
龍之介「まあ、それはそうなんだけどね」
中嶌「龍ちゃん、結婚は?」
龍之介「したいね」
中嶌「子供とか」
龍之介「・・・欲しいね」
中嶌「やっぱそうなんだ」
龍之介「子供とか欲しいって思ったりしない?」
中嶌「うーん、どうなんだろ、その辺がね、また微妙なんだけどねえ・・なんで子供欲しいって思うのかな」
龍之介「だって、可愛いじゃない、人の子供とか見てもさあ」
中嶌「うん、人の子供はね」
龍之介「自分の子供だったら、もっと可愛いって思うでしょう」
中嶌「そうかな」
龍之介「そうだよ」
中嶌「それさあ、思えなかったら、どうする?」
龍之介「え? どーゆーこと?」
中嶌「いやさあ、子供って絶対可愛いのかなあ・・可愛くないって思うことってないのかなあ・・可愛いって思えなかったら、どうしようって思うんだよね」
龍之介「中嶌って、あれ? 小さい頃、親とかにかわいがられなかった人なの?」
中嶌「え? 俺? いや、そんなことないよ。かわいがられた。すごいかわいがられた。愛されて育ったね」
龍之介「じゃあさあ」
中嶌「いや、だからかもしれないけど、俺がさ、親が俺にしてくれたみたいなことをさあ・・子供にしてやれるのかって言ったら・・ねえ」
龍之介「自信ない・・か」
中嶌「微妙なんだよねえ」
龍之介「そら微妙だわな。保証はなんもないからね」
中嶌「ないよね。もしも、ダメだった場合にね・・ああ、ホントに俺はダメだって・・」
龍之介「そういうネガティブシンキングってさあ」
中嶌「ダメだよね」
龍之介「わかるよ」
中嶌「あ、そう?」
龍之介「なんかあれじゃん、まださ、大人になった実感がないってことはさ、裏を返せば子供なわけじゃん。ガキよ、ガキ。そのガキがさ、ガキなんか育てられるわけないんだよね」
中嶌「(笑って)はははは・・・」
龍之介「それは無理な話だよ」
中嶌「(笑う)はははは・・・」
龍之介「そうだろ」
中嶌「そうだよね」
龍之介「そりゃ不安にもなるわな」
中嶌「そうだよね」
龍之介「ま、そんな先のことよりも、まず結婚をね、しないとね」
中嶌「相手は?」
龍之介「いる・・いるいる・・っていうか待ってる。っていうかせっつかれてる」
中嶌「言われてるんだ」
龍之介「いや、言わないでね、こう待ってる光線を(出している)」
中嶌「じゃあ、いいじゃん、しちゃえば」
龍之介「なんかねえ・・きっかけがね、あれば・・って思うんだけどね・・したいのよ、結婚はね、結婚式もね、したい・・ドームで」
中嶌「ドーム?」
龍之介「うん、東京ドームで結婚式」
中嶌「ああ、いいじゃない」
龍之介「みんな来てくれるかな」「
中嶌「来るんじゃないの? 東京ドームでしょ、来るよ」
龍之介「成島とか」
中嶌「竹内美紀子とか」
龍之介「竹内・・美紀子」
中嶌「きれいだよな」
龍之介「ホント、ホントそうだよね」
中嶌「でもなあ・・」
龍之介「来てくんないかな、俺の結婚式」
中嶌「行くよ、行く行く・・」
  と、中嶌、ラジカセのスイッチを再び押した。
  チャイムが流れてくる。
  やがて・・
龍之介「今のチャイムはさあ・・」
中嶌「うん」
龍之介「授業が終わって・・休み時間が始まる時のチャイムかな」
中嶌「・・・・・」
龍之介「それとも、休み時間が終わって、授業が始まる時のチャイムかなあ・・」
中嶌「(笑って)さあ・・・」
龍之介「どっちかなあ・・・」
中嶌「どっちでしょう・・」
龍之介「・・・風、まだ冷たいね」
  ゆっくりと暗転していく。