第42話  『鏡美人』
  明転。
  東の部屋。休日の午後。
  あぐらをかいて、片手で持った一升瓶のラベルをじっと見ている東。
  その背後には今、開けられたばかりだろう、宅急便の段ボールが転がっている。
  東、ふうっと小さなため息をついた。
  すぐにピンポーン、と、玄関のチャイムが鳴ったかと思うと、風呂敷で包んだ重箱を提げた龍之介が入ってくる。
龍之介「ごめん、ごめん、車、池袋のあたりでめっちゃ混んでて」
東「あれ、五十(ごとう)日だっけ?」
龍之介「ちがう」
東「ちがうよな」
龍之介「ちがうよ、なんでだろう、わけわかんない・・」
  東、それとなく一升瓶をひっこめるが、それとなくもなにもない、龍之介はすでに気づいている。
  だが、龍之介は自分が持ってきた風呂敷を解き、重箱を取りだす。
龍之介「おまたせ、おまたせ」
東「これ? これなの?」
龍之介「じゃーん・・」
東「おおっ・・」
  東、のぞき込む。
龍之介「俺の最後の作品」
東「見して、見して」
龍之介「もう当分、和菓子を作ることはないからね」
東「やっぱあれだ、専門の機械とかないとダメなんだ」
龍之介「機械っていうか、設備・・かな。オヤジの一周忌が終わった時に実家を売りに出すってのは、もう去年のはじめには決まってたことだからさ」
東「一軒家はねえ、お母さん一人には、広すぎる」
龍之介「そう、老人介護つきのマンションに引っ越したいって・・よくある話よ。ただ、うちが和菓子屋さんだったってことが、よくある話とはちょっとちがうのかな」
東「その和菓子の設備だけ、龍ちゃん、ひきとればよかったのに。そうすれば、休日の度に本格的な和菓子が家庭でも」
龍之介「俺、作らないもん、和菓子」
東「和菓子屋の息子だろ」
龍之介「和菓子作って一生終わるの嫌だから、公務員になったんだもん」
東「もったいないな、技術はあるのに」
龍之介「でも、本格的な修行はしなかったからね」
東「もったいない・・」
龍之介「お茶入れよう、お茶」
東「あ、お茶ならあるよ」
龍之介「あ、いや、持ってきた」
  と、日本茶を取りだす。
龍之介「これ、煎れて」
東「あ、決まってるんだ」
龍之介「決まってるっていうかね、これがね一番相性がいいのよ、俺の和菓子とは」
東「へえ・・」
  と、受け取った。
東「高いんだろ? このお茶」
龍之介「まあ・・」
東「まあ・・まあなんだ・・」
龍之介「それは、もうしょうがないの、高くても・・(と、重箱を示し)最高の和菓子には最高のお茶、ね」
東「ん・・だよね・・じゃ、お湯沸かすわ」
龍之介「ん」
  と、東、台所へ行こうとする。
龍之介「トンちゃん」
  東、足を止めた。
東「ん? なに?」
龍之介「(と、一升瓶を示し)それ、なに?」
東「日本酒・・」
  龍之介、日本酒の側まで這って行って手に取ってラベルを眺め。
龍之介「『鏡美人』・・聞いたことないよ」
東「そりゃそうだよ」
龍之介「これなに、地酒? うまいの?」
東「うまいよ。さっき届いた」
龍之介「へえ、いいなあ」
東「さっき届いた・・実家から」
龍之介「実家?」
東「あれ、話したことなかったっけ? 俺んち、実家、造り酒屋だから」
龍之介「え! うそ!」
東「ほんと、ほんと、九州の」
龍之介「へえ・・じゃあ、今も、御両親が造ってるんだ」
東「いや、両親じゃなくて、妹がね・・」
  と、東、台所へ。
  その間に、龍之介、日本酒の瓶に手を伸ばして抱きかかえた。
龍之介「あ、そう・・造り酒屋か・・いいなあ・・『鏡美人』・・しかし、和菓子もってきたのに、日本酒が待ってるなんて・・なんて間の悪い」
  と、戻ってくる東。
東「呑む?」
龍之介「え、あ、いや・・」
東「一杯、いっとく?」
龍之介「あ、いや、今日は・・ほら、俺の作った和菓子を賞味する日だからさ」
東「だよな」
  と、龍之介から一升瓶を受け取ろうとする。
  が、龍之介、渡さない。
東「どしたの?」
龍之介「ちょっと、さ、こうしていたいんだ」
東「なんで?」
龍之介「そーゆー気分」
東「今、沸かしてるから」
龍之介「見る? 俺の作品」
東「見たい、見たい」
龍之介「俺の最後の作品、どうぞ・・」
  と、重箱の蓋が開く。
  のぞき込む東。
龍之介「な」
東「うん」
龍之介「どお?」
東「なんか、買ってきたみたいな和菓子だな」
龍之介「買ってきたみたいによくできてるだろう」
東「これ、ホントに龍ちゃんが作ったの?」
龍之介「(心外の極み)な! な! そうだよ・・そうに決まってるじゃん」
東「あ、いや」
龍之介「なに?」
東「ごめん・・なんかもっと独創的なさ、見たこともないものを目の当たりにして、うわっ! ってのを期待してたからさ」
龍之介「拍子抜け」
東「かなあ」
龍之介「じゃあ、もういいです」
  と、重箱に蓋をする。
龍之介「そんな人にはあげません」
東「ああっ!」
龍之介「(ムッとしている)なに?」
東「あ、いや、いただきますよ・・っていうか、くれよ」
龍之介「ほんとに食べたいと思ってる?」
東「思ってるよ、だって龍ちゃんの最後の作品なんだろ」
龍之介「そう」
東「いただきますよ・・ね、お茶も沸くからもうすぐ・・そしたら・・」
龍之介「うん、俺の和菓子、ね」
東「結びつかないねえ・・龍ちゃんと和菓子」
龍之介「よく言われたよ・・おまえ、全然和菓子屋の息子には見えないって」
東「・・なんか緊張するなあ」
龍之介「なんで?」
東「いや、かしこまって和菓子なんか食べたことないからさあ」
龍之介「そんな、そんな、和菓子なんだからさあ・・ほんとは手づかみで(と、やってみせる)こんな食ってもいいんだからさ」
東「いや、そういうわけには・・」
龍之介「楽に、楽にね」
東「あ、ああ・・」
龍之介「おいしいお茶、煎れてやるからさあ」
  と、一升瓶を覗き込み。
龍之介「それはなに? 妹さんが造ってるの?」
東「そうだよ」
龍之介「へえ、トンちゃんにそんな酒を造っている妹さんがいたなんてねえ」
東「龍ちゃんに言ったよ。うちは酒屋だって」
龍之介「酒屋って・・普通、酒屋って言われたら、そんなの居酒屋かなんかだと思うでしょう」
東「造り酒屋」
龍之介「なんでしょ。しかも、妹さんが造っているなんてねえ。(ラベルを読んで)鏡美人・・いくつ、妹さんは」
東「二十八」
龍之介「いい頃だねえ」
東「年離れてるからねえ」
龍之介「かわいいんだ」
東「うん・・まあね」
龍之介「かわいがってたんでしょう」
東「まあねえ」
龍之介「猫っかわいがりだ・・顔は?」
東「ん・・顔はねえ」
龍之介「かわいいよ、かわいい。絶対かわいいって」
東「中の・・上ってとこかな」
龍之介「またまたまた・・中の上ってことはないよ。それを言うなら上の中でしょう」
東「なんでそんなの龍ちゃんにわかるんだよ、見たこともないのに」
龍之介「見たことないよ、見たことないけど、わかるよそんなの」
東「どうして?」
龍之介「トンちゃんのほら、顔の緩み方でさあ」
東「ゆるんでる、俺」
龍之介「もう、へろへろだよ。さっき妹さんの話がでたとたんにそれだもん」
東「そうか? そうかな・・」
龍之介「そうか、そんな妹さんがいたんだ」
東「名前はねえ、鏡子。鏡の子で鏡子」
龍之介「鏡子、鏡の子で鏡子」
東「そう」
龍之介「鏡子ちゃんか。造り酒屋の鏡子ちゃん・・え、じゃあ、これは、あれなの?」
東「あれ、わかっちゃった?」
龍之介「鏡美人ってのは」
東「そうなのよ」
龍之介「鏡美人の鏡は鏡子の鏡」
東「そうだよ」
龍之介「やっぱじゃあ、美人だ」
東「美人なのかな、美人っていえば美人かな・・兄の俺もね、ときどきハッとする時があったからねえ」
龍之介「そうだろ、絶対そうだろ」
東「結構ね・・地元では有名だったんだけどね」
龍之介「美人で」
東「うん・・まあ・・自慢の妹ではあったね」
龍之介「でもね、でも鏡子ちゃんは美人だけど、ただの美人じゃないじゃない。酒が造れるわけでしょう」
東「地元のテレビにも出た事があるんだけどね」
龍之介「酒造りで?」
東「美人で」
龍之介「だよね、俺も今、そう思った」
東「今、酒造りでって言ったじゃない」
龍之介「言いながら、違うって思ってた」
東「なんだよ・・呑みたいのかよ」
龍之介「だ、誰もそんなこと言ってないじゃない・・なんだよ・・」
東「ほんとに?」
龍之介「ほんと、ほんと。鏡子ちゃん・・瞳が澄んでるんだろうなあ」
東「なんでわかるんだよ、そんなこと」
龍之介「瞳が澄んでないと、こんな澄んだ酒造れないってば」
東「そうか(と、酒瓶を改めて見る)」
龍之介「澄んでるねえ。鏡子ちゃん、二十八歳。独身?」
東「独身」
龍之介「独身か」
東「いき遅れてるんだよ、酒のことばっかやってて」
龍之介「いいじゃないの。それはそれで」
東「いや、それでもさあ」
龍之介「あれなんじゃないの、みんな寄ってこないんじゃないの。美人過ぎて」
東「なに言ってんだよ」
龍之介「いや、だって、そうなんだってば・・美人ってそうらしいよ、みんなねえ、高嶺の花だと思って手が出せないんだよ」
東「昔さあ『夏子の酒』ってあったじゃない」
龍之介「あった、あった」
東「あれはね、うちの妹そっくり」
龍之介「あれよりは美人でしょう」
東「いや、顔がじゃないの、酒造りへのなんていうの、情熱がさ」
龍之介「そうでしょ、あれよりはきれいでしょう・・そうか、情熱がね。大変なんでしょ、酒造りってのは、体力もいるし、繊細さも必要だし」
東「熱心なんだよね」
龍之介「日本酒に賭けてるんだ」
東「うん、仕事として選んだって言ってた」
龍之介「えらい! えらいよ、ほんとに、それはねえ、なかなか言えることじゃないよ。生き甲斐を見つけたんだねえ。でもそれはいいことだと思うよ。そんだけの美人だったらさ、専業主婦になってさ、ワイドショー見ながら、煎餅ぼりぼりかじってても誰も怒らないでしょうに・・それがよ、見つけちゃったんだねえ、生き甲斐を。自分の仕事を・・それがその鏡美人なんだねえ・・いい酒なんだろうねえ」
東「うまいよ」
龍之介「うまいんだろうねえ」
東「たまらんよ」
龍之介「・・たまらないんだ・・どんなんだろう・・鏡美人・・鏡美人・・鏡子ちゃんの鏡美人」
東「一杯、いってみる」
龍之介「え・・ほんとに?」
東「うん・・その湯呑みとって」
龍之介「いや、でも・・まだほら封も切ってないのに」
東「封なんてほら・・切っちゃえばいいんだよ」
龍之介「いいの、俺なんかのために封切って・・俺が最初に味見させてもらっていいの?」
東「酒は人に呑まれるためにあるんだよほら」
  と、東、龍之介の湯呑みに注ごうとして、止める。
東「一杯だけだよ、今日はほら、龍ちゃんのね・・和菓子のための」
龍之介「そうそう、そうそう、そうよ。ほんとに、お茶が沸くまでのことなんだから」
  と、東、龍之介の湯呑みに注いだ。
龍之介「ごめんね、ほんとに、でもねえトンちゃん、トンちゃんの話とか聞いてるとね、鏡子ちゃんってのが気になるしねえ、その鏡子ちゃんが情熱を注いで造った酒。これがもうどんなものかって思うとねえ」
東「いいから呑めよ」
龍之介「いただきます」
  と、口元に持っていき、
龍之介「いただきますよ、ほんとに」
東「いいから呑めよ」
  と、龍之介、呑む。
東「どう?」
龍之介「・・・・」
東「どう?」
龍之介「・・・・」
東「どう? 鏡子の酒は?」
龍之介「・・・・・」
東「おい、な(んとか言えよ)」
  その言葉を龍之介、手で制して止めた。
  東、とりあえず沈黙するが、その後もなかなか龍之介はリアクションしない。
  やがて・・
龍之介「(つぶやくように)んまい」
東「え?」
龍之介「んまい・・んまいよ・・トンちゃん・・これ、んまい・・・」
東「うまいか?」
龍之介「んまいね・・」
東「うまいだろ」
龍之介「んまいね、鏡美人」
東「(ほっとした)だろ? そうだろ、うまいだろ・・」
龍之介「うまい酒は水みたいっていうけどさあ、こんな澄んだ酒はさあ・・もうねえ、今、今呑んだでしょ。もう・・(と、臍のあたりを示し)ここまで、今もう、ここまで来てるわ」
東「すーっと入ってきたろう、すーっと」
龍之介「来たね、すーっと」
東「すーっとね」
龍之介「鏡子ちゃんがすーっ、来た感じがするよ。もう、五臓六腑に染みわたるとかじゃないね、これは・・全身の毛細血管がね、今、震えたよ」
東「来た」
龍之介「来た。もうねえ、洗われた感じ。」
東「洗われた?」
龍之介「うん。これ、水はなに?」
東「湧き水」
龍之介「でしょ。そうだと思ったよ。もうねえ、その山から湧いた水がね・・」
龍之介・東「すーっと」
龍之介「来てるわ」
東「来てるでしょ」
龍之介「お見事」
東「そういう酒なんだよ」
龍之介「奪われた・・俺は今、鏡子ちゃんに奪われた気がする」
東「なに言ってんだよ」
龍之介「いや、ほんとにねえ・・」
  と、龍之介、湯呑みを音を立ててすすり始める。
東「いや、うれしいねえ」
龍之介「うれしいって、ほんとの事だもん」
東「いやあ・・なに言ってんだか」
龍之介「言ってるんじゃないの、思ってるの。それがもう、たまらなくなって俺の口からこぼれ出てるの」
東「ほんとにこう、くーぅっていう余韻がさ」
龍之介「(まだ舐めている)ずずずず」
東「滴(しずく)まで舐めなくてもいいよ」
龍之介「いや、滴まで舐めたくなるよ。この鏡美人は・・きめの細かい人なんだろうな、鏡子ちゃんは。ほんとにねえ、いろんな酒を呑んできたよ、俺も。三十六年間。全国さあ、あちこち旅するとさあ、必ずその土地土地の地酒を呑んではきたよ。いや、でもねえ、これはなかなか、呑んだことないね・・」
東「ああ、そうかね」
龍之介「鏡美人の鏡ってのは鏡子の鏡。そう思って呑んじゃうと、もうすーっという、この落ち方が違う」
東「二十八年前、だから鏡子が生まれた年にオヤジがね、鏡子にちなんで造ったのがはじまりなんだけどね」
龍之介「ちなんで正解」
東「それでオヤジから、鏡子が受け継いでね・・きめ細やかさがね」
龍之介「入ったんだね。これは」
東「そうなんだよ」
龍之介「トンちゃんのお父さんが造ってた鏡美人は呑んでないけどね、俺はわかる、わかるよ。だって、鏡の鏡子、美人の鏡子本人が造っている鏡美人」
東「その通り。も一杯、呑んどけ」
龍之介「いや、いやいや」
東「いや、これはねえ、龍ちゃんに呑んでもらわないと、俺の気がすまない」
龍之介「あ・・でも、そう言われると断れないからなあ、こっちも」
  と、湯呑みを差し出す。
  東が注いだ。
龍之介「でも、これトンちゃんが呑む分を残しておかないとねえ」
東「いや、俺が呑んでもしょうがないんだ」
龍之介「しょうがないって、そんな・・せっかく妹さんが造った酒を・・」
  と、また一口呑んで。
龍之介「んまい・・すーっと、すーっとねえ・・んん・・」
東「龍ちゃん、和菓子屋継ぎたくなかったんだろ」
龍之介「うん・・」
東「どうして継ぎたくなかったの?」
龍之介「うん、理由は簡単なんだけどね」
東「え? なに?」
龍之介「俺、うちの和菓子よりもさあ、プリンの方が好きだったんだよ」
東「あ、そう・・へえ」
龍之介「プリンが好きな奴が和菓子作れないじゃない」
東「そういうもんなの?」
龍之介「やるからにはさあ、この世で一番うまいものを作りたいじゃない」
東「プリンの方が上だったんだ」
龍之介「俺も・・俺の周りの奴もね。あの頃の小学生はだいたいそうだったじゃない」
東「ああ、そうだったかもな」
龍之介「そうだったんだよ」
東「俺はさ、龍ちゃん、酒屋、継ぎたかったんだよ」
龍之介「うん」
東「俺は継ぎたかったけど、継げなかったんだよ」
龍之介「あ、そうなの、なんで?」
東「俺さあ、酒の味がわからないんだよ」
龍之介「え? そうなの?」
東「そうなの」
龍之介「この酒がうまいってのはわかるんでしょ」
東「・・わかる。わかるつもりなんだけどね」
龍之介「だけど、なんなの?」
東「いや、なんていうか、微妙なところがね・・」
龍之介「わからないんだ」
東「家でね、利き酒するでしょ」
龍之介「うん・・造り酒屋だからね」
東「酒が三つ並んでて、そのどれかがうちの酒って言われて・・俺、どれが自分の家の酒か当てたことがないんだよ」
龍之介「え? ほんとに?」
東「造り酒屋の息子がね・・」
龍之介「だから妹さんが?」
東「それもある」
龍之介「ああ、そう・・そうなんだ」
東「それも、大いにある」
龍之介「そうか・・」
東「だから鏡子の酒をうまいって言ってくれると、単純にうれしいよ」
龍之介「うまいって言うよ。うまいんだもん」
東「うまい?」
龍之介「んまいねえ」
東「うまいんだろ? 鏡子の酒は」
龍之介「んまいね」
東「そうか・・うまいか」
龍之介「でもあれだね、トンちゃん」
東「なに?」
龍之介「トンちゃんの代わりに妹さんが鏡美人を造ってるんだからさ」
東「うん」
龍之介「トンちゃんはあれだ、家を継げなかった代わりに、こうやって妹さんが造った酒を注いでるんだからさあ」
東「家が継げなくて、酒を注いでる」
龍之介「そう、そういうことよ」
東「うまいこと言ってくれるねえ・・よし! もう一杯!」
龍之介「うん・・もらおうか」
  と、東、酒を注いでいく。
  そして、その酒の一口呑んで。
龍之介「んまい・・んまいねー」
東「そうか、そうだろ」
龍之介「鏡美人・・最高だね」
東「んまいか?」
龍之介「んまいねえ」
東「そうか」
龍之介「んまいよ」
東「もちょっと、いく?」
  と、東、一升瓶を差し出した。
  龍之介もまた湯呑みを差し出す。
  暗転。