第4話  『もみの木という名の女』
  イメクラのプレイルームの一室。
  腰にバスタオルを巻いただけの龍之介がいる。
  やがていいかげんなもみの木のかっこうをしたイメクラ嬢の詩織が入ってくる。
詩織「お待たせーっ! もみの木でーす」
  と、その詩織を見て、仰天している龍之介。
  詩織、間がもてなくなって、もう一度振り付きで、
詩織「もみの木でーす、よろしくぅ」
龍之介「え、ああ・・」
詩織「もみの木ちゃんでーす」
龍之介「あ、はい」
詩織「よろしくぅ」
龍之介「(まじめに)よろしくお願いします」
詩織「・・・やって、早く」
龍之介「やって?」
詩織「うん(甘えて)早くぅ」
龍之介「え・・・ええ・・でも」
詩織「早くぅ・・ん・・ん・・ん・・やってぇ」
龍之介「やってって・・なにを?」
詩織「好きにしていいのよ、あなたのもみの木なんだから」
龍之介「いや、好きにしていいって言われても・・」
詩織「もみの木でーす」
龍之介「なの?」
詩織「好きにして(と甘えるそぶりを見せる)」
龍之介「好きにしていいの?」
詩織「(艶っぽく)いいわよーん」
龍之介「好きに・・・どうするの?」
詩織「まず、あるでしょ、やることが」
龍之介「え、あるんだ、まずやることが」
詩織「ねえ、早くぅん」
龍之介「え、ちょっと待ってよ・・・え、もみの木だろう・・ちょっと、ヒントもらっていい?俺、なにするの?」
詩織「(嫌そうに)えー、ヒント?」
龍之介「これ、どういうプレイなの?どういうイメージなの?」
詩織「わかんないかなあ」
龍之介「わかりません」
詩織「飾り付けして」
龍之介「飾り付け?」
詩織「うん、私はもみの木だし、寂しいじゃない」
龍之介「(やっとわかって一安心した)あ、ああ・・そうだよね・もみの木といえば、飾り付けだよね。そうだよね。だってクリスマスだもんね」
詩織「私、このままなの? クリスマスなのにこのままなの?」
龍之介「(プレイに入っている)このままにはしておかないよ。寂しい、寂しいもみの木ちゃん、こっちおいでよ。こっちこっち」
  と、もみの木を自分の側に引き寄せる龍之介。
龍之介「さあ、もみの木ちゃんをもみもみだ」
  と、龍之介がもみの木の衣装に手をかけたとたん。
詩織「剥がないで! 皮は剥がないで!」
龍之介「皮、剥がないで?」
詩織「寒くて凍えちゃう」
龍之介「寒くって・・俺、裸だよ」
詩織「私はもみの木、早く飾り付けして、して、してぇ」
龍之介「え・・飾り付け?」
  と、龍之介、また詩織の体に触れようとする。
詩織「(怒って)違うってば、もう」
龍之介「なに? なになに?」
詩織「もう、わかってるくせに」
龍之介「いや、飾り付けって・・なにを飾り付けたらいいの?じゃあ、飾り付けしてさあ・・俺・・ちょっと待ってよ、それでなにするの?いや、ちょっと待ってよ。どんなプレイするのか、ちょっと話し合おうよ。どんなプレイするの?」
詩織「特別コースだからね、これは」
龍之介「うん、わかってるよ」
詩織「スペシャルなやつ」
龍之介「スペシャル?」
詩織「スペシャル」
龍之介「OK、スペシャルね。で、なに?」
詩織「決めるのは、あなたよ」
龍之介「え、俺なの?」
詩織「そうよ、お客さんが一番興奮できることでいいのよ」
龍之介「興奮すること? もみの木で?」
詩織「好きにしていいのよ。私はお金で買われたもみの木なんだから」
龍之介「好きにしてもいいって言われてもなあ」
詩織「あなた次第よ。今日のひととき、私はあなたのもみの木でーす」
龍之介「・・・・・」
詩織「もみの木でーす」
龍之介「頭、おかしいんじゃねえのか? 誰が喜ぶんだよ、そんなコースで」
詩織「頼んだのは、あなたでしょう」
龍之介「いや、頼んだけど」
詩織「ね」
龍之介「(思い直して)いや、そんなものは頼まねえよ!」
詩織「どっかちがうところと勘違いしてるんじゃないの?」
龍之介「違うとこ?違うとこってどこだよ」
詩織「うちはそういうんじゃないのよ」
龍之介「じゃあ、どういうんだよ。勘違いしているのはそっちだろうが」
詩織「あなた、ここ、どこだと思ってんの? ここはイメクラよ。イメージクラブよ」
龍之介「知ってるよ、知ってて来てるよ、あたりまえだろ」
詩織「あなたの想像力を羽ばたかせるところでしょ。だからほら・・(甘えて)早くう」
龍之介「やっぱおかしいよ。なんか違うってわかってんだろ、ほんとは・・・いやそうやってなにかをじらしてるんだ」
詩織「もう・・・」
龍之介「じらしてるんだ」
詩織「もう・・・早くして、じらされてるのはあたしの方なのよ」
龍之介「(やけくそになって)もうええ! もみの木の中へ!」
  と、もみの木に飛び込んでいく。
詩織「ちーがーうーっ」
龍之介「なんだ、おまえ。なんなんだよ。どっからめくるんだよ」
詩織「だーかーらー、木だから、めくるところなんかないの」
龍之介「ああ! ちょっと待てよ。これさあ、お客さんとか来るの?これ」
詩織「あなただってつい選んだんでしょ。三十六のコースの中から」
龍之介「いや、俺は・・・その、たまたま罠にはまったみたいなもんだからさあ」
詩織「罠なんて言わないでよ、人聞きの悪い」
龍之介「だって俺・・・なんか思いもよらなかったな、こんなところで自分を試されるなんて」
詩織「そんなに悩まないでよ。好きにしていいのよ、もみの木を」
龍之介「なにを・・どうすりゃいいんだぁ!」
詩織「どうしようかね、お客さん」
龍之介「どうしたらいいんだよ」
詩織「こんなに知らない人がいるとはおもわなかったわ」
龍之介「みんな知ってんのか、これ」
詩織「当たり前じゃないの」
龍之介「ほんとに俺だけ知らないの?」
詩織「そうよ」
龍之介「有名なの、このコース」
詩織「すごく有名」
龍之介「ああ、そう」
詩織「みんな知ってるよ。テレビにも出たし」
龍之介「え? テレビ? トゥナイトとか?」
詩織「そう。トゥナイト。(目の)この辺にこういう黒いヤツつけて」
龍之介「うっそーこれで?」
詩織「顔は出さないで下さいって言ったら、こうやって」
龍之介「出したっていいじゃん、こんなんなら。なんでだよ、なんで顔隠すの?」
詩織「私のプライバシーのためよ」
龍之介「まあな、恥ずかしいっちゃ、恥ずかしいもんな」
詩織「なんか、ちょっと今の、傷ついたけど」
龍之介「あ、そう、なんで?」
詩織「もみの木にも傷つく心はあるのよ」
龍之介「いや、あんたはいいよ。もみの木になりきって傷ついてりゃいいけどさあ、俺の立場って・・こんなバスタオル一枚の格好で・・この次、どうするの? おいおい、ほかの部屋でもこんなことやってるのか?」
詩織「そうよ、もうみんなウハウハで、アフアフよ」
龍之介「な、なにをやって、ウハウハでアフアフなんだよ」
詩織「それは一口では言えないなあ。お客さんの好みだからね。人それぞれっていうの?」
龍之介「そんなにいっぱいあるのかな、方法って・・待てよ、もみの木だろう・・もみの木」
詩織「お客さん、落ち着いて。何か飲む? お水でも」
龍之介「お水?」
詩織「お水ならいくら飲んでもいいのよ」
龍之介「水はそんなには飲めないけどさあ・・もみの木、もみの木・・わかった、そっちがもみの木なら、こっちも俺の中のもみの木を探せばいいんだ」
詩織「俺の中のもみの木? だからもみの木は私なんだってば」
龍之介「あ、いや、ちょっと待て。話をややこしくしないで。もみの木・・もみの木っていったら・・」
詩織「もみの木、もみの木、もみの木って言ったら?」
龍之介「・・・クリスマス」
詩織「クリスマスといったら」
龍之介「サンタさん」
詩織「サンタさんといったら?」
龍之介「スイス」
詩織「スイスといったら」
龍之介「ハイジ」
詩織「ハイジといったら」
龍之介「クララ」
詩織「クララといったら」
龍之介「立てた」
詩織「立てた〜」
龍之介「ちょ、ちょっと待った・・ダメだダメだ・・あれ、どこでおかしくなったんだ? ハイジかな?」
詩織「ハイジはよかったんじゃない?」
龍之介「だいたいサンタさん、スイスじゃないしな」
詩織「え? どこなの?」
龍之介「サンタさんはフィンランドだろう」
詩織「フィンランド、フィンランド、フィンランドといったら」
龍之介「・・・ノルウェー」
詩織「ノルウェーといったら・・なんで?」
龍之介「北欧三国だろう」
詩織「はあ〜、北欧三国ね。北欧三国といったら」
龍之介「三国志」
詩織「三国志といったら」
龍之介「ああ、離れていっちゃったかな」
詩織「大丈夫、大丈夫・・三国志といったら」
龍之介「(ひらめいた)3P」
詩織「え、なに〜?」
龍之介「三と3だろう」
詩織「ああ・・3Pといったら」
龍之介「のりピー」
詩織「のりピーといったら」
龍之介「柿ピー・・・」
詩織「柿ピーといったら」
龍之介「・・・ああ、だめだ。なんで柿ピーなんて言っちゃったんだろ」
詩織「ピーとピーだからじゃないの」
龍之介「は、あ〜、ピーとピーが一緒ね、ってだからなんなんだよ! こんなことしててなんの意味があるんだよ・・・ほんとにどうすりゃいいんだ」
詩織「じゃあ、お客様、ほんとはやっちゃいけないんですけど・・コースチェ〜ンジなさいますか? セーラー服とか、看護婦の制服とか・・なんか適当に着替えてきますよ」
  と、出ていこうとする詩織。
龍之介「ちょっと待て。ちょっと待った、もみの木ちゃん。セーラー服?看護婦? スチュワーデス?レースクイーン?インストラクター? そんなものは全部知ってるよ」
詩織「あの・・お時間もあんまりありませんから」
龍之介「時間? 延長する、三十分延長する」
詩織「大丈夫ですか、お客さん、延長して」
龍之介「(ちょっと考えた)三十分でいいのか? 一時間? いや、三十分、三十分で勝負だ」
詩織「延長するんだったら、女の子をチェンジして・・」
龍之介「え、それもできるの?」
詩織「それでまたもみの木するっていうのは?」
龍之介「いや、話をややこしくしないで。いいの、いいの、君のもみの木で。だってみんなウハウハのアフアフなんでしょ」
詩織「そうですよ」
龍之介「ちっきしょう。俺だけ取り残されている気がするからな。俺ね、こういうところじゃ逃げないんだよ。ここで逃げちゃ、だめだろう、うん」
詩織「いいんですかあ、これで、ほんとに」
龍之介「いいんだよ」
詩織「(最初のように)もみの木でーす」
龍之介「・・・・・」
詩織「もみの木でーす」
龍之介「・・・・・」
詩織「(くるっと回って)もみの木でーす」
龍之介「だめだあ! やっぱりわからん!!」
詩織「そんなに悩まないでくださいよ・・やっぱり変えましょうか? なんかネグリジェとかパジャマにでも、着替えてきますよ」
  と、出ていこうとする詩織。
龍之介「ちょっと待て!だからね・・だからおまえのもみの木じゃないと、ダメなんだってば!」
  曲、先行カットイン。
  そして、暗転。