『さよならQ2』

作・じんのひろあき

登場人物・朝倉 和美

Q2の電話を自宅で請ける仕事をしている和美。
しかし、このQ2のバイトも今日が最後である。
確かこういう情報サービスはそろそろ廃止になるはず。
そしてこの第六話は、その最後の日の一シーンである。
気楽な感じで電話は続いている。

もう・・終わりだよね・・Q2も・・うん・・私明日から職失っちゃうよ、プーだよ、プー・・うん・・
よかったよ・・普通のバイトよか、全然よかったよ・・だからよ・・逆にさ・・次のバイトが決めづらい
っていうか・・・だってさ・・なかなかないよ・・こんな自分家の電話でダラダラ電話しててバイト代も
らえるなんて・

聞かない方が良いよ・・トシちゃんの今のバイト代っていくら? いや・・ちなみに聞いてみただけ・・
え、私のバイト代教えたら、引き換えに教えてくれる? じゃいいよ・・別にそんな事知りたくって聞い
てるわけじゃないから・・うん、ちょっとすねちゃった・・わかる? ちょっとすねちゃってるの・・8
00円・・一時間? ふうん・・一時間800円なんだ・・それっていいほうなの? うん・・私そんな
男の子のバイト代ってわかんないから・・違うわよ、男の子のバイトと女の子のバイトって・・

だっているよ・・私の高校の時の先輩・・うん・・一本出て、マンションの頭金にしたの・・池尻大橋・
・そうそう・・違うわよ・・特殊な例じゃないって・・だって私その時面接に行ったもん・・それが・・
駄目だったの・・あれ・・この話してなかったっけ? 違うわよ・・失礼な・・そん時まだ十六だったか
らよ・・あと二年したら来なさいって言われたの・・なんか駄目なんでしょ、十六じゃ・・

行ったよ・・行った、行った、十八になって・・行ったらそこの事務所マージャン屋になってたの・・私
もマンション欲しかったな・・買ってよトシちゃん・・え、本当に? あんまり期待しないで待ってるけ
ど・・・

ああ・・私・・・うん、そんなでもないけど・・・寂しいけどさ・・本当よ・・結構トシちゃんの電話で
元気になった事もあったもん・・本当だって・・そりゃ仕事でやってるけどさ・・やっぱ、私さあ・・な
んだかんだ言っても、結構トシちゃんの事気にしてたみたい・・田原俊彦がTVに出てると想像しちゃう
のよね・・・ああ・・こういう髪型の人なんだって・・・顔とかはね・・想像つかないから・・

うん・・終わりだよね・・すっごいしゃべったよね・・私この22年間の中で、トシちゃんと電話で話し
たのがきっと一番長いよ・・嬉しい? あ、本当に? そう言ってもらえると、私も嬉しい・・
トシちゃんさあ・・結局・・この半年で私にいくら使ったの? そうだよ・・そりゃそうだよ・・考えよ
うによっちゃ一銭も使ってない事になるかもしれないけどさ・・でもNTTに払ってるわけだからさ・・
・月いくら? いいじゃない・・最後にさ・・引き換えに直電? 駄目!・・規則なの・・本当、本当。

半年で二百四十万・・二百四十万・・驚いたっていうか・・全然実感わかないから・・二百四十万って・
・いわれても・・なんか、へえ・・って感じ・・・生活費って月いくらでやってるの? え? 五万五千
円? 家賃入れて? 五万五千円・・うわぁ! 五万五千円?うん、びっくりした・・なんか私って、ト
シちゃんの事すっごくわかったつもりになってたけど・・まだまだ知らない事っていっぱいあるよね・・
本当・・何かもっともっと話したかったよね・・

水道橋だっけ・・今ティッシュ配ってるとこ・・東京ドームの方? の、反対側か・・いつかさ、こっそ
り行って見るよ・・なにしにって・・トシちゃんのティッシュ貰いにに決まってるじゃない・・私、すっ
ごいさりげなく、トシちゃんから、ティッシュ受け取るね・・全然知らない人のふりして・・わかんない
よ・・絶対わかんないって、そんなの・・私達さ、街で会ったって絶対わかんないって・・わかるわけな
いじゃん・・どーして? 絶対? なに賭ける? え? 命? 信じらんない・・・なによ、今のが本当
の気持ちって・・

だから直電は駄目だって・・教えちゃいけない規則なの・・住所・・(アキれて)駄目よ・・住所で電話
番号調べられるじゃない・・そんなんじゃないんだったら、どうするの、住所聞いて・・・遊びに来る?


すげー困ってる。

おいおいおいおい・・またまた・・冗談でしょ・・・駄目よそんなの・・私達さ・・会わない方が良いよ
・・どうしてって・・現実の私見たらね・・失望するよ・・それは私が保証するから・・幻滅する・・

私はね・・トシちゃんが思ってるような女じゃないんだから・・私・・今日の今日までトシちゃんを利用
して来た女なんだから・・いやいやいやいや・・・別れるのがつらいから嫌われようとして言ってるんじ
ゃないの・・本当の事を真心込めて言ってるだけなの・・そりゃ、この仕事は好きだったよ・・うん・・
ほかのバイトよりよかったし・・私は仕事でトシちゃんと話してて、私は仕事が好きで・・よって、私は
トシちゃんが好きって・・・事にはなんないでしょう・・

私ね・・蠍座なのよ・・・だからトシちゃんとは絶対駄目よ・・相性がほら・・

どうやって家まで来るのよ・・どうやって調べるのよ・・うん、電車走ってるよ・・家のそばに・・総武
線・・・・そんだけわかってりゃ十分って・・どうやって来るのよ・・それで・・

・・何年かかっても来る? ちょっと、気持ち悪い事言わないでよ・・トシちゃん・・ちょっとやめてよ
・・・チャイム? 授業の始まるチャイム?

怯えながらも。

そうよ・・あるわよ小学校が・・大通りだってあるわよ・・よく救急車が通ってるわよ・・

そんな事を言ってしまっていた自分に腹を立てながらも・・

そうよ・・その大通りには、二十四時間オチャケ売ってるローソンがあるわよ・・私・・トシちゃんと結
構話してたんだね・・いろんな事・・トシちゃんって、私の事結構知ってるじゃない・・

なに? まだあるって?

と、聞いて驚いた!

え、そんな事前に言ったっけ・・緑色の四階建・・

慌てて・・

違うよ・・それ誰かの家と間違えてるんじゃないの? 違うわよ・・うちそんなんじゃないんだもん・・
え、いいじゃないそんな事・・とにかく緑色じゃない事だけは確かよ・・

苦し紛れに。

トシちゃん、ほら、他の女の子の家と間違えてるんじゃないの? トシちゃんもてるって前に言ってたじ
ゃない、自分で・・あ! あの子は? 毎日通ってるセブンイレブンのレジの子・・セブンイレブンつぶ
れた? あ、そう・・ファミリーマートになったんだ・・じゃあさあ・・友達じゃないの、友達・・そう
よね、友達いたらQ2で二百四十万も使わなよね?

トシちゃん・・いいから聞いて・・・聞いて、聞いて、聞いて、トシちゃん! もしさあ・・もしもトシ
ちゃんが私んちに来ても・・私会わないからね・・ドア開けないからね・・それでもいいってどういう事
よ・・どういうとこに住んでるか見て・・どうすんのよ・・それがなんなのよ・・キモチ悪いな・・

ちょっと、やめてよ、トシちゃん! トシちゃん! Q2もうなくなるんだよ・・私達の関係もさ・・こ
れっきりにしない? トシちゃん・・なによ・・ちょっと、電話、保留にしないでよ・・・・何よこの曲
! なんだっけ、これ・・ロッキーのテーマだ・・・やめてよトシちゃん・・私あんたも嫌いだけど・・
ロッキーも大嫌いなのよ・・

暗転。

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